スポンサーリンク

17. ネパール・インド・ガンジス川(3)いざ、インドへ!

インド国境

スノウリの国境。いよいよここからインドに入る。

ついこの間までは陸の国境越えに憧れたりもしていたが、今回はそれどころじゃない。
なにしろインドである! しかも悪評高いスノウリ国境だ。緊張感が違う。

イミグレーションはそのへんのタバコ屋みたいな建物で、店番みたいなおっさんに、ポン!とスタンプ押してもらって
「ウェルカム トゥ インディアー」
あっさり終わった。

入国は簡単だったがその後がとんでもなかった。

前日に手配した切符をもって長距離バスの停留所へむかうと、いろんな人がやってきて
「その切符はバスナンバーが書いてないから無効だよ。もう一度、買いなおして」
「荷物、トランクに入れたの? じゃあと140ルピー追加ね」
さくさくさくさく、お金を騙し取られていく。

こいつらはほとんど強盗みたいなもんで、払わないと先へ進めない。中にはナイフ持ってる奴もいて、
「あ、これは本物の強盗?」
首をかしげることもあった。もはや正規料金なのかワイロなのか強盗なのかさっぱりわからないのだ。総額いくら毟りとられたのか計算もできない。むちゃくちゃである。すっかり憔悴した。

ヘルプミー!

国境で乗り換えたバスでヴァラナシ(ベナレス)へ向かう。外国人は私を含めて3人乗っていた。3人とも20代女子の一人旅。だが1人は完全にラリっていた。目の焦点はあってないしサンダルは片方だけ、服はギリギリ着ているという状態で、周りのインド人たちもドン引きしていた。ハイになってる時は

「あたしこの後、リシュケシュに行くのよお。あんた一緒に行かない? リシュケシュよお、知らないのお? リシュケシュはヨガの聖地で、とってもサイコーなのよお、毎晩パーティがあるんだってば、うふふ」

みたいなことを英語とドイツ語でまくしたてていた。私はトラブルに巻き込まれたくなかったので、なるべく彼女から距離を置いていた。ところが事件は、彼女とはぜんぜん関係のないところで起きてしまったのだ。

事件はドライブインのトイレで起きた。普通、ドライブインのトイレなんて外国人向けに作られてはいない。たいてい穴と間仕切りがあるだけだ。

だが一度だけ、ドアのあるトイレが出現したのだ!
しかも!
鍵がついている!
遠くからそれを見てとった私は、嬉しさのあまり走っていって一番にドアのあるトイレに籠もった。

そうしたら。
開かないのである。
鍵(チェーン)が知恵の輪のようにはまりこんでしまって、押しても引いても動かない。
なんということか。
閉じ込められてしまった。

暗くて臭くてハエがぶんぶん飛ぶトイレで考えた。もうすぐバスは出発するだろう。騙されて乗ったバスだから、私なんか置いていかれるに違いない。そのうち夜がきて……食べるものも飲むものもなく……ハエだらけのトイレで私は……このまま、誰にも気づかれないまま……。

「ヘルプミー!」
叫んでみた。扉をがたがたゆすってみた。そしたら、こんなインドの片田舎でトイレに閉じ込められてヘルプミーなんて言うてる自分がおかしくて、おかしくて、笑いが止まらなくなってしまった。
……私ってば、みっともなーい!
ただただ、笑えた。

「人間は、生きるか死ぬかどうしようもなくると笑う」
というのは真実なのだと悟った。

ヘルプミーが聞こえたのか、周りの人が気がついて、外から数人がかりで引っ張ってくれた。それでドアはようやく開いた。「生きながらえた」と思った。

明るいところへ出てから気づいたのだが、指からだいぶ血が出ていた。力いっぱいドアと奮闘した時に擦れたのだろう。本当に、インドで鍵のあるトイレになんか入るものじゃない。

いろいろあったが、ネパールを出てから12時間後、夜にはヴァラナシ(ベナレス)に到着。なんとか適当な宿をみつけて転がりこむことができた。ホッと一息というところ。お風呂上りに缶ビールをラッパ飲みしつつ、ケガした指にバンソウコウを貼りながら、
「インドに負けないぞー!」
と改めて誓うのであった。

ヴァラナシはガンジス川沿いの町だ。有名な火葬場のある町だ。
インド・オブ・インド。
これぞインド。
……恐怖しかない。
飲まないやってられないほど心細かったのである。

ドライブインの食事

蚊柱の宿

ヴァラナシの宿は強烈だった。
最初の夜はなんともなかったが、2日目の夜、
「ただいまー」
って帰ってきたら、玄関がなんとなく薄暗くて霞んでいる。「電球が切れそうなのかな?」と思いながらよく見たら・・・

蚊!
蚊!
蚊の大群!
見たこともないほどの蚊の大量発生!
薄暗く見えたのは、蚊の大群のせいで視界が霞んでいるせいだった。

「ぎょえええ!」
叫んでしまった。逃げ出したかった。が、もう夜だし逃げこむあてもない。思い切って玄関を駆け抜けた。共同リビングでは宿の主人と友達が2人で酒を飲んでいた。その部屋もまた蚊に占領されて薄ぼんやりと暗かった。
「ああ、おかえりなさい」
振り向く主人。
「蚊が多いから気をつけてね」

いや、多いってレベルじゃないだろ!
もはや災害クラスだろ!
蚊柱の中に住んでるみたいなもんだろ!
なんであんたたち普通に酒のんでおしゃべりしていられるの!?
と、聞きたかったけど口をあけると蚊が飛び込んできそうだから話もできない。

廊下をダッシュし、階段を駆け上がる。
幸いなことに2階は明るかった。まだ蚊はいたけど、大群ってほどじゃない。耐えられるレベルである。

その夜は頭からシーツをすっぽりかぶって無理やり寝た。シーツのあちこちに血の染みがぽつぽつと付いてるのが不気味だなあって思ったけど、宿泊客が蚊をつぶした跡なのだと判明した。

スポンサーリンク
広告



広告



シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク
広告