近頃、母は嘔吐する。
原因はよくわからない。
吐くのはいつも決まって深夜である。
吐き気や噎せなどの前兆はない。
寝ている時の嘔吐は危険なので、近頃は私も母のとなりに布団を敷いている。
すると昨夜、草木も眠る丑三つ時。
ふっと目が覚めた。
なにか変だ。
母はおとなしく眠っている。
シシィも私のお腹の上で眠っている。
静かな夜だ。
静かな。
静か・・・?
耳をすませると妙な音が聞こえる。
あぶくがはじけるような音。
なんの音だろう?
どこから聞こえてくるのだろう?
眠い。
むちゃくちゃ眠い。
それでもなんとか目を覚まそうと、一生懸命に考えて。
次の瞬間、跳ね起きた。
布団をけとばす。
お腹のシシィもとんでいく。
介護ベッドのリモコンに飛びついて「頭あげる」ボタンを押しまくる!
急げ急げ急げ急げ!
「おかーさん起きて!」
一瞬、むせたのかもしれない。
何かもっと違う音を聞いたのかもしれない。
寝ぼけていたのでよく覚えていない。
ただ、母が嘔吐しかけていることはわかった。
間に合え、間に合え、間に合え、間に合え!
嘔吐する直前、上半身を起こすことができた。
母は吐きそうな声をあげたが、呻いただけで、何も出てこなかった。
かわりに
「ひっこんだ」
と呟いた。
どうにか間に合ったのだ。
これまで母は「なんの前触れもなく」吐くのだと思っていた。
だが熟睡してるだけで、前触れはやっぱりあったのだ。
あぶくのような、あの音だ。
きっと喉の奥で何かが起こっていたのだろう。
母はいつも、仰向けに「気をつけ!」の状態で寝ている。
直立不動である。
子供の頃から仰向けでしか眠れないらしく、寝返り不要なのだそうだ。
だが、仰向けも嘔吐の原因になるのかもしれない。
そう思って横向けに寝かせた。
いつも深夜の嘔吐は何度も続くのだが、そのあと一度も起こらなかった。
何がなんだかよくわかんないけど、ちょっとだけ勝ったような気がして、嬉しかった。
・・・おかげさまで私は今日も寝不足だ。口内炎早く治れ。
急に寒くなったので膝には猫が常駐するようになりました。