将棋ができなくなってゆく

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「兄貴が将棋を始めた」
と、オヤジが嬉しそうに教えてくれたのは2年くらい前。
将棋はオヤジにとって数少ない健全な趣味だ。
体が弱って将棋サークルに通えなくなってきた頃だったから、
「これからは兄貴と将棋ができる」
と喜んでいた。

最初のうちは互角だったらしい。
「なかなかやりおる」
と楽しんでいた。
だがすぐに負かされた。
「兄貴、強くなった」
と唸るのを聞いて、伯父が強くなったというより、オヤジが弱くなったんだろうと言いたいのを堪えたものだ。
オヤジの頭はどんどん衰えている。
将棋のように先を読むような力はとうに無い。

去年からは将棋相手のいるデイサービスに通いはじめたけれど、そこでも同じことが起こった。
最初は勝ったり負けたりしていたのに、じきに全然勝てなくなって、しまいには
「相手してもらわれへんから見てるだけ」
とこぼすようになった。
弱すぎて相手にならないのか。
それともルールを忘れてしまって、駒の動かし方さえ覚束ないのかもしれない。

年賀状を書かせようとしたら自分の名前以外はなにも書けなかった。
毎日つかっていたのにお湯の出し方がわからなくなった。
オヤジは日々、進化していく。
前へと進んでいく。

それでも毎日たくさんご飯を食べて、たくさん寝て、お笑い番組をみてゲラゲラ笑って暮らしている。
『鬼滅の刃』も大好きだし、若い人が見るような深夜のバラエティも楽しめるみたい。
テレビ感覚が若いのかな。
本人どう思ってるかはともかく、傍目にはのんきで幸せそうに見える。

サンジはオヤジのご飯を横取りする係です

さっき夫婦そろってデイから帰ってきたのだが、夫婦そろってパンツを汚してきた。
仲がいいにも程がある。
今はせっせと洗濯をする私を尻目に
「かあさんとコーヒー飲む」
というので母と2人でお茶しています。
平和だなあ・・・。