私はデイサービスで働いている。
デイで一番大変なのがレク、レクリエーションである。
デイの職員は毎日頭をひねり、知恵をふりしぼってレクを考える。
子供っぽくない、大人の遊びをと考える。
だが利用者さんの状態はそれぞれみんな違う。
認知症のある人もない人も「一緒に」できることを考えなければいけない。
だが、なかなかうまくいかない。
利用者さんにウケないのだ。
「新しいレクは10回に1回当たればいいほう」
と先輩は言う。
本日、私が考案した新しいレクは「金魚すくい」。
皆さんも子供の頃にやりましたよね?
「いや、うちらが子供の頃にはまだなかったな」
「食べ物がない時代やから、金魚なんかおったら食べてたと思うわ」
・・・今日は食べないでくださいねー。
ポイはゼリー容器とティッシュで作る。
金魚はペットボトルの蓋をセロファンで包み、輪ゴムで括る。
たったそれだけの簡単なもの。
「またそんな子供だましな事やって」
と、ボスは内心ひややかに見ていたらしい。
だが事態は思わぬ方向へ転がる。
利用者さんの一人がルールを決めたのだ。
「1人1回、ひとすくいね!」
金曜の利用者さんは負けず嫌いの方が多い。
『金魚すくい』が『金魚すくい競争』になったとたん、
「今日は負けないぞ!」
みたいな雰囲気ができあがった。
こうして死闘が始まった。
1人1すくい!
1匹でも多く!
たとえ紙が破れても最後まであきらめずに捕れ!
一度に3匹の金魚に襲いかかる人もいれば、あっというまにポイが破れてしまう人もいる。
本気になるとつい他人に厳しくなるのが勝負の世界。
皆さん熱くなっちゃって、
「あ、あんた破れたな!」
「破れてもまだできるでえ!」
「ほなやってみい!」
「あ、アカンで、1回ずつや!一巡するまで待っとき!」
「次は私の番やし!」
「こんなんアカンわ!」
「もっぺんやりなおしや!」
「そんなんズルイわ!」
「◯◯さん、その破れ具合やったらまだイケるで、あきらめたらアカン!」
「あんたうるさいな!」
・・・ほぼケンカである。
平均年齢90才のプライドを賭けたケンカである。
こんなの私の知ってる金魚すくいじゃない・・・。
「今日は人数が少ないから、手があいたら賑やかしに来てね」
と頼んでいた調理師さんは怖がって近づくこともできなかった。
戦闘も終盤にさしかかり、ポイのティッシュがどんどん破れていく。
Sさんのポイも破れてしまった。
そんなとき
「あんた、どうするの、まだできるんじゃないの!?」
ちょっといばってる利用者さんが、Sさんに声をかけた。
激闘をくりひろげ、アツくなっていた流れで、それはそれは恐ろしい詰問口調だった。
「どうするの!?自分で決めて、言いなさいよ!」
Sさんは一番認知症が進んでいる方だ。
失語があり、ほとんどまったく話せない。
普段はぼーっと見ているだけ。
それを自分で言いなさいなんて・・・Sさん可哀想、どうしよう。
と思った瞬間。
奇跡が起こった。
失語症のSさんが、大きな声で
「私はもういいです、これで終わりにします!」
ハッキリくっきり言い返したのだ。
ちょっといばってる利用者さんに、大人しいSさんが言い返した、いや、やりこめたのだ!
私たちも利用者さんも、いばりん坊の利用者さんでさえ、ヤンヤヤンヤの大喝采。
拍手まで湧く始末。
照れるSさん。
ゲームが盛り上がって、アツくなって、どぎつい関西弁でポンポン言い合いをして・・・その流れの中で生まれた奇跡だった。
「レクなんか子供だまし」
と思われるかもしれないけど・・・なかなか威力のあるものなのだ。
とはいえ全体的に見れば、半分ケンカみたいになってしまったし。
あれは成功と言えるのかどうか?
私は首をひねっていた。
そしたら利用者さんの「今日の感想(毎回書いてもらう)」に、そろって
「金魚すくい楽しかった」
「金魚すくいがおもしろかった」
「金魚がいっぱいすくえたのでよかった」
と書いて下さっているのではないか!
あれはあれで成功だったのか。
10回のうちの1回だったのか。
よかったー!
仕事が終わって帰宅したら、サンジはちゃんとご飯食べてたのに、オヤジが食べていなかった。
なんでや。
コメント
こんばんは。
金魚すくい、大成功ですね!
関西弁での熱い喧嘩の近寄り難い怖さは、90歳越えでも衰えないのですね…🙀
Sさんの奇跡で和んで良かった。
セロファンの金魚のカラフルさで一層盛り上がったのでしょう。
サンジくん、しっかり食べて、このまま元気に夏を乗り越えますよーに😸
ありがとうございます。
100才近い方もおられますが負けそうにないですね(笑)
長生きするに方はそれだけのモノがあるということでしょう。
サンジはよく食べよく脱走しております・・・。
元気っちゃ元気ですね。
だださん、こんばんは。うわぁ~、まさに死闘ですね。うちも、ぜひ金魚すくいやってみます!お祭りになるか?死闘になるか?どうなるかな~。楽しみ。
あっ、そうそう。大量出血のホラーお爺ちゃんは、あの後日付が変わって1時半頃に、病院から帰されまして…(結局、単に鼻血という事だったようです。)アパートに着いたのはもう、丑三つ時で。まるで○人現場の様なお部屋ですが、取りあえず寝てもらいました。私は、血生臭い匂いが鼻から離れず一睡も出来ませんでしたが(汗)朝になって、親族の方が来られ、一緒にお爺ちゃんの部屋の掃除に取りかかりました。時間が経過している事もあり、なかなかきれいに拭き取れず…敷物を上から敷いて取りあえずカバー。親族の方、一見してドン引き絶句「まるで○人現場!」と叫んでました(笑)
取りあえず、お爺ちゃんは落ち着いてます。
血液サラサラになる薬飲んでました?と、看護師に聞かれたけど、飲んでないんですよね~。何だったんだろう…
お疲れ様です。
BGMにお囃子を流してたのに全然聞こえないほどの大騒ぎでした。
涼しくて簡単なのでおすすめです。怖いけど。
鼻血のおじいちゃん、ご無事でよかった~
殺人現場に丑三つ時ですか。
怖すぎですやん・・・!
そしてかなりの被害ですやん・・・。
大量出血の原因が気になりますね。
人生熱く滾れるうちがハナです。
スレスレと言えばスレスレですけど(笑)、お行儀良く昔語りしたり懐かしの歌謡曲歌うのもいいけれど、バイタリティを盛り立てるのも大事。
賞金獲得、獲物獲得でモチベーション上がるのは高齢者も同じです。
うちの金曜日はいつもスレスレなんですよ。
調理師さん、いつも怯えてます(笑)
ハラハラ・ドキドキするゲームはきっと脳みそが活性化するんだと思います。
丁々発止のやり取りも、相手がいてこそできるコミュニケーション。
うちのデイは貧乏だから賞品なんて何もないんですよ。
もし出したら・・・血を見ることになるでしょうね・・・。