MRIの父娘

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久しぶりに母とおでかけした!
やったー!
・・・と、言いたいところだけど。
行き先は病院。年一回のMRI検査だ。
「もうちょっと素敵な所に行きたいねえ」
と母がぼやく。
この1年で訪れたどこよりも病院の外来は密であった。

MRIはめんどくさい。
まずは「準備室」に連れていかれ、説明を受ける。
「MRIは磁気を使うから金属の持ち込みは厳禁です。カイロもヒートテックも入れ歯もダメですよ!全部はずして検査着に着替えてください」
着替えてください、って簡単に言われるけど、麻痺のある人にとって車椅子での更衣はけっこうめんどくさいんだよ。
服が背もたれに引っかかっちゃうんだよ。
ぶつぶつ言いながら着替えをさせる。

母が検査室に向かうと、入れ替わりで、先に検査を終えた患者さんが帰ってきた。
車椅子のおじいさんだ。
ゆっくりゆっくり車椅子を漕いで準備室に入り、ロッカーの前で着替えを始めた。
一人で車椅子をこげるくらいだから、母よりは動けるんだろう。
それでも更衣は大変そうだった。
ロッカーは使いにくいし車椅子の背もたれが引かかってしまう。

私は思わず立ち上がりかけた。
高齢者に手を貸そうとするのは親切というより職業病である。
だが思いとどまった。
家族さんが側にいたからだ。

私と同年代の女性がソファに座ってスマホをいじっていた。
さっき検査技師の人と話していたから確実におじいさんの家族、娘さんである。
だが彼女はスマホ画面だけを必死で見つめて、おじいさんがどんなに苦労しても1ミリも顔を上げることはなかった。

ひどい家族だと思うだろうか?
おせっかいなおばちゃんだったら、
「ちょっとあんた、手伝ってあげなさいよ、あんたの親でしょ!」
と小言をいうかもしれない。

でも私は何もしなかった。
父娘の間には「何か」があることは確実だったからだ。
だって普通なら、あんなふうに無視なんかしないだろう。
着替えを手伝うなり声をかけるなりするだろう。
でも彼女は何もしなかった。
よほどの事情があって、あえて見ないフリを決めていたんだろう。

もしかしたら親子関係がとても悪いのかもしれない。
口を聞かないほど憎しみあってるのに、病院に付き添えるのは自分しかいないから嫌々来たのかも知れない。
もしくは、あのおじいさんは「絶対に自分でやりたいタイプ」なのかもしれない。
手を貸そうとすると
「自分でできる!」
と振り払われるのかも。
どっちにしろ他人が口を出す所じゃない。
私は黙って本を読んでた。
どっちにしろ、ちょっとせつなかった。

・・・うちも。
と、本を読むフリをしながら思った。
うちも父娘関係はそんなにいい方じゃない。外から見てる人には
「ほんとにもう」
と、じれったく思われているのかもしれない。
「お互いにもうちょっと優しくすればいいのに!」
と。
それができないのが親子なんだよね。
黙ってスマホを見つめつづける娘さんの気持ちがわかるような気がして、だから私はあの親子に触れなかった。

この洗濯物は渡さない!と抱え込むサンジ。返して

母の検査はスムーズに終わった。
異常なし問題なし。
よかった、よかった。

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