めんどくさいから服を着ない

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深夜、すごいクシャミが聞こえてきた。オヤジである。
様子をみにいくと、布団からでてベッドに座っていた。
驚いたことに、パジャマをぬいで下半身ほぼ裸である。
買ったばかりのセラミックヒーターも消えている。
そりゃあクシャミも出るわけだ。
「こんな寒いのに何をしてるの?」
「・・・」
オヤジは答えない。
ぼやーっとテレビを見つめている。
早く服を着ないと風邪ひくよ?
「うん」
素直にうなずいたから、私はヒーターだけつけて部屋を出た。

母の湯たんぽ・シシィさん

30分くらいして。
・・・やっぱり気になる。
もう一度オヤジの様子をみにいった。
するとオヤジはさっきとまったく同じ状態でテレビを見ているではないか。
下半身まる裸でなにしてるの!

そのときやっと、気がついた。
尿臭だ。
粗相をしたのだ。
・・・もしかしてパンツ替えようと思ったの?
「うん」
じゃあ、新しいパンツはけば?
パジャマも着ないと風邪をひくよ。
「・・・・・・」
どうしたの?
「めんどくさい」
オイイイイ!

『人間の尊厳とは』という言葉を思い出した。ヘルパー講習で『利用者の尊厳を大事にしなければいけない』と教えられたものだ。だが、めんどくさいからパンツを履かないオヤジ、1か月も歯磨きしないし、自分から顔を洗ったこともない、そんなオヤジの尊厳とは一体どこにあるのだろうか。

そういえば、オヤジは昔から薄着だった。
真冬になってもジャケットを着ないオヤジに、どうして温かい服を着ないのか尋ねたら、同じように
「めんどくさい」
と返ってきたのだっけ。
母があきれて
「お父さんは風邪を引くのが趣味だからねえ」
とため息をつき、
「おれは風邪なんか、ひかへん!」
と言い返したオヤジは毎年1度か2度は風邪で寝込む、というのが冬の恒例行事だった・・・。

そうだった。
オヤジは昔からそうだった!
面倒くさがって、やいやい言わないと暖かくしないのだった!

「風邪をひくのが趣味」?
例年ならそれでも自業自得と笑っていられた。
だけど今年は、今年だけはダメだから!
今オヤジが熱を出したら、私は仕事に行けなくなるし、母もデイに行けなくなるし、もしかしてコロナかもって疑っちゃうし、検査とか本当にもう大変だから!

今年は風邪ひくの禁止!
その趣味、禁止!

花でも見て落ち着こう。フジバカマ。

でも無理にパジャマを着せようとしたら
「いい!自分やる!」
断固として拒否された・・・。
なんとかパジャマを着せて寝かせるのに、2,30分かかった。
眠たかった。