母の帯状疱疹はちょっとずつ良くなっている・・・気がする。が、劇的に良くなっているとはとても言えない。
デイサービスへ行くと
「こんなスゴいの初めて見ました!」
と驚かれるくらい。
かなりの長期戦の予感がする。
大変なのは、痛みや痒みや出来物や薬の塗布だけではない。
水分補給である。
「水をたくさん飲むように!」
と主治医に言われているのだ。
「今のんでいる抗ウィルス薬は肝臓を傷つけるおそれがあるから、とにかく水分をとって!」
ところが母はもともと水をのむことが苦手だ。飲み物に興味がないせいか、嚥下反射にはさほど問題がないのに、お茶をゴクンと飲み込むことができず、5分でも10分でも口にふくんだままでいる。
季節によっては好物のスイカやミカンで水分をとれるが、今はちょうど端境期。冬ミカンがなくなり夏のスイカにはまだ早いという季節だ。
・・・こんなときに普段より多めの水分補給なんて、至難の業だ。
どうやって水分をとらせよう?
私は一生懸命に考えた。
水でもジュースでもスープでも、大好きだったコーヒーでもダメ。
ゼリーやシャーベットは大嫌いなので口をつけてくれない。
とろみをつけたら吐きそうになる。
イチゴやリンゴじゃ間に合わない。
無理にでも水やお茶を飲ませるしかないのか。
「がんばれ!」
「お母さんならできる!」
「自分に負けるな!」
松岡修造ばりに応援しまくっても、コップ一杯のむのに1時間はかかる。
私もそんなに暇じゃないんだけど。
そこで考えた。
母が水をゴクンと飲み込むための「秘策」を!
実はこれまでにも、たま~に、うまく飲みこめる時があった。
それは
「喋ろうとするとき」
だ。
可愛い孫からLINEがかかってきて「おばあちゃん!」と話しかけられたら
「はーい!」
と応えなくちゃいけない。そのためには10分以上も口にふくんだままのお茶をゴクンと飲み込むことができるのだ・・・嚥下というより心の問題かもしれない。
私はこれに目をつけた。
要は
「しゃべりたい」
と思わせられれば、飲み込めるのだろう。
だから、思わず喋りたくなるようなクイズを出題することにした。
母がお茶を口にふくんだ瞬間をねらって
「それではここで、問題です!」
とクイズを始める。
「第1問! 『子守熊』と書いて何と読むでしょう?」
母はクイズマニアである。ネプリーグ、東大王、ミラクルナイン、クイズ番組なら何でも大好き。その母が問題を無視するわけがない! 答えを言おうと、とっさにゴクンと飲み込んで
「こぐま!」
と言い放つ。
すごい、いつもは一口5分かかるところを、たった10秒で飲み込んだ!
「ぶぶー! 正解は、『コアラ』です!」
「はずれたー!」
笑っている母の手にコップを押し付け、もう一口、口にふくんだところで
「第2問! ウォンバットのウンチの形は?」
とたたみかける。
次もまた、答えをいうためにすぐ飲み込む。
答えがわからなくて困っていればヒントを出したり、3択にする。
それでも飲み込まないときはオヤジの出番だ。
横から勝手に
「三角!」
とか答えられたら、母も張り合うように
「四角!」
と答える。
「ピンポーン!正解は、四角です!」
「四角いウンチって!」
母は笑いながら、次の問題のためにお茶を口にふくむ。その繰り返し。
クイズをやり始めてからお茶を飲むスピードは猛烈に早くなった。
コップ1杯1時間かかってたのが、20分になった!
クイズすごいな!
・・・ただ。
水分補給は、何度もやらなくちゃいけないから。
毎日、何十問もクイズをやらなくちゃいけないから。
楽しめるように盛り上げなくちゃいけないから。
これはこれで、ちょっとキツい。