冬季オリンピックが真っ盛りである。
お祭り好きの母は1人で大盛りあがり。
一日中でもオリンピック中継を眺めている。
しかも今日からフィギュアスケートの男子シングルが始まった。
母の大好きな羽生結弦選手の登場である。
母がどれくらい羽生ファンかというと、デイサービスに行けばファンの友達がいるそうだし、座位保持クッションにまで「ゆづる」と名前をつけるし、カレンダーとか買っちゃうし、立位のリハビリをするときにも
「あっ、あそこに羽生君が!」
と冗談を言うだけで一瞬、姿勢が良くなるくらいである。一瞬だけだけど。
もしも羽生君の結婚報道がでたら
「嫉妬で狂う」
とか言っている。怖い。
そんなだから今日は必死だった。
試合は午後からだというのに
「いつ羽生君が映っても見逃さないように」
と朝からテレビに釘付けだ。
そして午後1時。
憧れの羽生結弦選手が登場する時間が近づいてきた。
いよいよだ。
「ドキドキするねえ!」
そこへ
「こんにちはー」
とやってきたのは訪問看護師さん。
いつもこの時間に両親をみてもらっている。
けれど・・・
「今はそれどころじゃない」
視線をテレビに据えたまま、母は宣言する。
「私は羽生にしがみついてるんだから!トイレにだって行かないからね!」
浣腸してる場合じゃなかった。
看護師さんは
「『ゆづる』なのにそこは譲れないんですねえ」
と、うまいこと言うて笑っていた。
羽生結弦選手のショートは8位に終わった。
明後日のフリーでは最高の演技を見られますように。
でも母は・・・デイだな・・・
「デイなんか行ってる場合じゃない!休む!」
って言うだろうなー。