「夢があるの」

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「それでも希望は捨ててないのよ」
とFさんは言った。
まだまだ若くて可愛らしくて、穏やかで、ちょっぴり甘えた上手なFさん。つらい病気に負けまいと、いつでも前向きな言葉を探していた。
「ねえ、だださん、なにか元気になれる歌を知ってる? どうしても落ち込んでしまうときがあるの」
といわれて一緒に歌ったこともあった。
どんどん病状が悪くなっていくなかでもFさんは言った。
「寿命は神様が決めるもので、それは誰にもわからないし、どうしようもないんだけど、それでも私は希望は捨ててないのよ」

箸休めの猫写真。母の手をひっかきにきたシシィ

デイサービスのバザーに来ませんか、と誘ったらFさんは顔を輝かせて答えた。
「わあ、バザーだって! わあ、楽しみ!」
コーラスの発表もあるんですよ。よかったら一緒に歌いませんか? 曲が決まったら歌詞を持ってきますから。
「いいの? じゃ持ってきてね。絶対よ! うわあすごいなあ、コーラスだって!」

現実には難しいことだった。
Fさんはデイに通っているわけではない。訪問介護の利用者さんだ。バザーへお連れすることは介護保険のサービスから外れてしまう。
それでも
「ボランティアを頼んでなんとか来てもらおうよ」
とボスは言ってくれていた。上司も私たちヘルパーもみんな来てもらいたいと思っていた。未来に楽しいことが待っているのは大事だから。それに・・・それに。

デイサービスのバザーは、明日。
でもFさんは来られない。
遠くの病院に入院されたから。
せめて晴れますようにと祈る。
底なしの青空はずーっとどこまでも続いているから。
病室の窓にもつづいているはずだから。
気持ちだけでもFさんと一緒に歌いたいから。

いつか、Fさんは言っていた。

「聞いてくれる? 私ね、夢があるの。元気になって前みたいに動けるようになったらね、ボランティアがしたいの。だっていつもあなたたちが来てくれるおかげで、私は毎日とっても嬉しいんだもの。だから治ったら、私も誰かの役に立ってあげられたらなあって思うの」

役に立てるかどうかはわからないけど、私は一部しか参加できないけど。
明日のバザー、皆さんに楽しんでもらえるようにがんばろうと思う。