ゴミ屋敷・モノ屋敷

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訪問介護をしていると、いろいろなお家を見る。
ぴかぴかに磨かれたお家もあれば、何年も掃除機をかけていないお家もある。
不自由な体でも暮らせるようにきちんと整えておられる方もいれば、手当り次第に散らばす方も。

高齢の男性の中には片付けが苦手な方も多い。
掃除の仕事でヘルパーが入ってみると、掃除機をかけるどころか足の踏み場さえなかった。
部屋中おびただしいモノで埋め尽くされている。
古新聞、雑誌、チラシ、広告ハガキ、レシート、通販のダンボール、説明書、古い絵葉書、古い写真、あと、なにか得体のしれないものがたくさん!

これはいけない。
なんとかキレイに片付けて人間らしい生活を送って頂かねば。
そう思ってゴミを集めようとすると
「捨てないで!」
と懇願された。
「他人にはゴミに見えるかもしれないけど、それは大事なものなんだ」

……出たよ。
ゴミ屋敷の常套文句「大事なもの」。
このゴミの何がどう大事なのか説明してもらおうじゃないの!?

「この新聞はもう古くて色が変っているけど、妻の友達が載ってるんだ。捨てたら妻が悲しむだろ。この写真は妻と旅行に行ったときのもの。そこの写真も旅行のだ。ボロい雑誌は旅行のガイドブック。変てこなお面はそのとき買った土産物。レシートも、ほら、土産物屋だ」

なるほど。ほんとに大事なモノなのか。

「そう。こっちのダンボールはまだ中身が入ってる。妻が買ったんだけど一度も開けてない。捨てるわけにいかんだろ。これも妻宛の…あれも妻の…あれも…」

半分くらいは奥さんのモノ。
残りの半分は、奥さんとの旅行の思い出に関するモノだった。

「捨ててしまえって、みんなに言われる。息子にもケアマネさんにも、こんなんゴミに見えるんやろ。ワシにはどれも大事なものや。思い出のあるもんばっかりや。ゴミじゃないからぜんぶ説明できるで。だから捨てられへんのや」

ゴミ屋敷じゃない。
思い出屋敷だった。

「ワシかって病気あるし、そんなに長くはないと思う。残り少ない人生やから、大事なモノと一緒におらせてほしい」

そんなこと言われて無理に捨てようとするヘルパーがこの世にいるだろうか。
結局、奥さんとは無関係なクリップとかビニール袋とか最近のチラシを捨てるくらいしかできない。
あとは紙類を束ね、モノを分類し、整理整頓していく。
崩れてこないよう壁に寄せ、つまずかないよう通路をつくる。
それから少しずつ少しずつ、いらないモノを選り分けて捨てていく。
奥さんとの思い出話に耳を傾けながら。
ヘルパーという赤の他人にできることは、それが限度じゃないのかな…

だが、しばらく経ってから
「ぜんぜんキレイになってない!」
と上からお叱りが来たそうだ。
「こんなに日にちかけてまだ掃除機もかけられない状態じゃないの!」
えーと、箒とハタキと雑巾はかけてますが…60年分の思い出は数週間では片付けられない思うのですが…

我が家は猫の毛がすごいな

シェークスピアは言っている。
きれいは汚い。
汚いはきれい。

きれいの定義がよくわからん。

コメント

  1. 誰かに話をする事で、気持ちが救われ、結果、身の周りを整理しようと思う日が来たらいいなと思います。生活動線をつくるだけでも大変だったと思います。くれぐれも腰には気をつけてください。

    • ありがとうございます。
      何をするにも気持ちって大事なんですよね…。
      気持ちの整理がつかないとモノも整理できませんから。
      実はこれは先輩ヘルパーの話で、私は仕事を引き継いだところなんです。
      ちょっとでもお役に立てるようにがんばります。

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