「最近ね、人生どうなる分からないって思うの」
と母が言った。
「明日はどうなるか、何が起こるか、誰にもわからないよね」
そうだねえ。今どんなに元気でも明日はどうなるか分からないもんねえ。おかーさんにしては珍しくネガティブなことを言うじゃないの。
「そうでしょ。何が起こるかわからないでしょ。だから、もしかしたら、もう一回ウィーンに行けるかもしれないなって思うのよ。あと羽生結弦の試合を見られるとか!」
・・・やっぱりポジティブなのか。
せいぜい引き寄せの法則に期待しよう。
2019年はどんな年にしたいかと母に尋ねたら、
「一人でバイオリンを弾けるようになりたい」
と無茶をいう。左手はびくとも動かないんがどうしても諦められないんだろう。なんともせつない目標である。なので
「2人バイオリンでは不満なの?」
と問い詰めたら、ようやく
「ええっと、じゃあ、弦楽セレナーデを弾けるような一年にする!」
と言ってくれた。
先月ずっと体調が悪かったし入院もしたしで、2人バイオリンの練習はだいぶ滞っている。久しぶりに弾いてみたらガタガタだった。夏の演奏会までによっぽど頑張らなくちゃいけない。
姪っ子の梅ちゃんもバイオリンを習っている。素直な良い音で弾く。自分のバイオリンと楽譜をオーストラリアから持参して、
「おばあちゃんと一緒に弾きたい」
と可愛いことを言う。
見てみると、
「ドッペルやん!」
バッハの『2つのバイオリンのための協奏曲』だった。かなり難しい曲だ。試しに弾いてみたけど全然無理。次にパッヘルベルの『カノン』に挑戦するが途中で挫折。なかなかうまくいかないものだ。
でもせっかくだから一緒に弾きたい。もっとシンプルな曲を探そうと思った。小学生の梅ちゃんが初見で弾ける曲。易しくてきれいな曲・・・そうだ!
「『祝祭』はどうだろう」
シベリウスの『祝祭アンダンテ』の楽譜を引っ張り出してきた。3年前、私たちの2人バイオリンが初めて演奏会で弾いた曲だ。楽譜がなかなか読めない母でもなんとか弾けたから、初見でも大丈夫だろう。
私たちは1stバイオリンを、梅ちゃんは2ndを。ぎこちないハーモニーではあったけれどちゃんと弾けた。フィンランドの雪原にのぼる朝日とはいかないけれど、家の庭を白くそめあげた雪の朝みたいな音楽になった。とても楽しかった。
「いっぱい練習して、来年はドッペルをやろうね」
と母がほほ笑んだ。
コメント
ゆきこさん、はじめまして!ご著書「おでかけは最高のリハビリ!」を読みました。
気丈なお母さまが発症され、ゆきこさんが帰国し、受け入れ準備をされるご様子などとても緊迫感が伝わりました。急なことで本当に大変でしたね。お母さまとウィーンへ旅立つ場面は、我がことのように嬉しくなり、私も母と一緒に何かできないかしら?と希望が湧いてきました。ブログでも、妹さんと姪っ子さんたちのふれあいや猫ちゃんたちの可愛い姿に、いつも癒されています。今年も、ゆきこさんとご家族さまにとって、穏やかな楽しい一年になりますように。またブログを楽しみにしています(^^)
ルーシーさん、初めまして!
拙著を読んでくださり感謝いたします!
ルーシーさんもお母様の介護をされているのですね。
ブログから暖かなご家族の様子が伝わってきました。
現実は楽しいことも、そうでないこともありますが、いつかすべてが思い出になるんですよね。
素敵な思い出をたくさんつくっていきたいと思います。
お互い楽しみましょうね!