猫のサンジは北側の小さな窓が大好きだ。
今は使っていない古いお風呂の窓だからちょっと汚れてたりするんだけど、そんなことお構いなしで、サンジは毎日この窓辺にすわって外を見ている。夏も冬も。暑い日も雪の日も。外を見たいから窓をあけてと私にせがむ。
「寒いよ!」
母からクレームがくる。
母に言わせればサンジは
「家にコウモリが入ってくるのを守ってるつもり」
らしい。
サンジは我が家の警備隊長であり、窓にはりついているのは大事な任務なのだ。2年前にうちに来たシシィは副隊長に任命されたが、この副隊長はサボってばかりで仕事をしない。それで仕方なく隊長みずから見張りをつづけているのだそうだ。
でも実は、サンジが守っているのは我が家ではない。
窓からは、家の裏の小さな広場が見えている。かつてサンジの縄張りだった広場だ。まだ外猫だった頃、サンジは毎日広場をパトロールして歩き、植え込みにもぐったり、木に登ったりしていた。よそから入ってきた猫とケンカをして追い出したこともあった。
サンジは今でも、窓から「ぼくの縄張り」を見張っているのだと思う。どんな犬が散歩をして、どんな匂いがして、どんな花が咲いているのか、気になるのだと思う。今はお家から出られないけれど…。そう思うと、ちょっとせつない。