祖父の話

スポンサーリンク

先日、祖父の記事(祖父の隠し財産を発見した時の話)を書いたときに、祖父のことをたくさん思い出した。私はおじいちゃん子だったから。

本が好きで歴史が好きで、なによりも妻と家族が大好きなお爺は、肝臓をわるくして入院し、半年間入院した。

最後の3ヵ月間はせん妄がひどかった。暴れ、叫び、窓からとびおりるそぶりも見せ、殺してくれと訴え、妄想をみつづけ、氷食症になり、まったく眠らず、薬もきかない。片時も目がはなせない。病院から
「24時間、家族の見守り(=監視)が必要です」
といわれた。
そこで私と母と叔父の3人が8時間ずつ交替でお爺を見張ることになった。

もちろん私には仕事があり、母は障害児である妹の世話がある。昼は仕事、夜は病院に泊まり込み、だいたい徹夜になった。3人ともげっそりと隈をつくってた。

そんな生活の中で私の密かな楽しみは、お爺のみる妄想やうわ言だった。お爺はすっかりファンタジーの住人になっており、日夜トンデモナイ妄想を見ていた。叔父などは
「あの賢いおじいちゃんの頭がおかしくなってしまった」
と泣いていたが、私は泣いたってしかたがないし、せっかくだから楽しもうと思ったのだ。

だって本当におもしろかった。お爺は「自分はアメリカ大統領の友人だ」といってみたり、「巨額の資産を隠している」といってみたりした。今日はいったい何を話してくれるんだろうと楽しみにしていたわけだ。

ある夜、お爺はぱっちり目を覚ましてこんなことを言った。

「おじいちゃんな、ものすごい秘密があるねん。普通の人が知ったらアカンことを知ってしまった」
ほうほう。どんなこと?
「それはな政治家に関わる話や」
おお、秘密っぽい。
国家機密っぽい。
「〇〇って政治家、知ってるか」
何年か前に総理大臣をやってた人だね。ダンディなおじさんだった。
「そう。そのダンディな◯◯がな…◯◯が…お尻だしてるねん」
はい?
「お尻をだしてるねんってば。こう、ぺろーんと」
ぺろーんと。
元総理大臣がお尻だしてるの!?
「そう」
・・・うん、それはすごい秘密だね!
「そやろ、すごいやろ」
お爺は満足げであった。
私は一晩中笑い転げた。

今考えてみれば、あの病院つきそいは本当に過酷だった。まだ若かったから倒れないで済んだのだろう。数ヶ月そんな生活を続けたあと、ヘルパーさん(自費)が手伝ってくれることになったときは感動した。救世主に見えた。家のベッドでちゃんと眠れるってどんなに幸せなことか知った。

お爺の葬式にはヘルパーさんも来てくれた。いっしょに戦ってくれたヘルパーさんの顔をみて、私は号泣してしまったのを覚えている。そして今、私はその事業所でヘルパーとして働いているのです。人生どうなるかわからんものです。

コメント

  1. 壮絶なのにおもしろい🤣
    だださんの感性に敬服します。
    私も、そんな風に介護な毎日を楽しみたいです。
    その人の尊厳を守ることになりますよね。
    私が介護される側になっても、そんな感じで寄り添って欲しいから…

    • 人間、しんどすぎると逆に笑っちゃいますよねー
      祖父の末期の頃は、寝てなさすぎてだいぶおかしくなってたのかもしれません。
      でもそれくらいのほうが、笑ってたほうが、楽なんですよね。
      介護されるほうも多分。
      なので私は妄想話には、ツッコミを入れてネタにしたり、一緒にのっかって笑ったりして、楽しむことにしています。