最後の金曜デートとパーフェクト・オヤジ

昨年末のこと。
「週１日だけ、朝から夕方まで仕事に出たい。デイサービスを増やそうかな」
私がそう言ったとき、オヤジは
「週１くらい俺が介護するで。まかしとけ！」
と言ってくれた。
「なあ、母さん。毎週金曜日は、俺とデートしよっか。２人であちこち出かけようや」
そこで毎週金曜日は『夫婦デートの日』になった。

オヤジは甘やかされた末っ子で、人に「世話してもらう」のは得意だけど、人の世話などしたことがない。数年前までは恥ずかしげもなく
「自分の面倒もみられないのに介護なんてできるか！」
と断言していたくらい。
ところが今では
「かあさんのために頑張らねば！」
と一生懸命だ。
人は変われる。
愛ってすごい。

週１回の金曜デートで、オヤジはほぼ毎週、車椅子の妻を外に連れ出してくれた。イオンのフードコート、アウトレット、図書館、カフェ、レストラン。映画やバラ園を見に行ったこともあった。

不器用なオヤジは毎回あたふたと苦労していたとようだ。トイレ介助に大汗をかいたこともあった。母の大好きなチーズケーキを買いに神戸まで出かけて、車椅子を忘れてとりに戻ったこともあった。外出でくたびれ果てたのか、帰宅するや否や寝入ってしまい、母のことを忘れて長時間放置、なんてことも何度かあった（ダメ。絶対）。

あちこち出歩いた9カ月間。オヤジはよく頑張った。もうくたくたに違いない。ありがとう。母は来週からデイサービスに行くことになった。

今日が最後の金曜デートだ。
先日、オヤジが母に尋ねているのを聞いてしまった。
「かあさん、次の金曜、どこにいこうか？」
70手前の爺さんというよりは男子学生みたいにウキウキした声だった。すると母は女学生の声で答える。
「美味しいパンケーキが食べたいな。ブランチにしましょうよ」
「・・・え？ ぶ、ぶ？ ぶらんち？ って何や？」

最後のデートだから、だろうか。オヤジはとっても張り切った。オープンして間もない洒落たパンケーキのお店を見つけてきたのである。
「俺が調べて見つけたんや！」
と自慢しているが、実は会社の同僚にスマホで探してもらったらしい（ありがとうございます！）。それでもちゃんと自分で電話をして、店内に段差がないか確かめていた（私がそうするように言った）。

パンケーキの店まで車で30分ほど。
平日なのにびっくりするほど混んでいて、だいぶ並んだらしい。
オヤジはランチを、母はパンケーキを注文。

（母のスマホでちゃんと写真を撮ってきてくれた。びっくり！）

おいしかった？とオヤジに尋ねたら
「なんでこんなに草（野菜）ばっかり食わなアカンねん！」
と、自分が注文したくせに文句を言っていた。オヤジは肉と魚と野菜がキライなのである。
母は
「すっごく素敵なお店なのよ。パンケーキもコーヒーも美味しくて大満足！」
もう大喜びだった。

そして。
私が帰宅したら。
なんと、カレーができていた！
バーモントカレー（甘口）！
パンと牛乳も買ってくれていた！
オヤジは今日は本当にすっごく頑張ったのだ！

「お父さん、すごいよ！」
「パーフェクト・オヤジだ！」
私たちは口々にほめちぎった。
するとオヤジは照れくさそうにこう言った。

「ぶ、ブログに・・・書いてほしい・・・」

うん、書いたよ！
会社の人に自慢していいよ！
100点満点だよ！
今日は本当にお疲れ様でした！