病室から花火が見えた夜(3)

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脳梗塞で入院したら、なんと水頭症が発覚したオヤジ。根性なしのオヤジがリハビリをするとは思えなかったため「手術は受けない」と決めたのだが…。

●オヤジの決意

担当医と話した翌日。私は仕事でイベントに出席していたが、自分の講演だけ終わらせるとそのまま退席させてもらった。病院の面会は午後2時~4時、いやリハビリがあるから実質2時~3時の1時間に限られている。その1時間のうちにどうしてもオヤジの顔を見にいきたかった。昨日のことで凹んでいるに違いないからだ。

私だって凹んでいた。良くなるであろう手術を「受けない」なんて選択、なぜ私がしなくちゃいけないんだ? しかも断る理由が「どうせリハビリをしないから」なんて、情けないし物悲しい。これでよかったのかという思いで悶々としていた。

仕事着のまま、紙オムツやプリンを山ほど持って病室を訪れる。オヤジは相変わらず、なんにも言わずに窓の外を見ていた。昨日の花火はよく見えた?と声をかけようとしたとき、
「ちょっとお話が」
と看護師さんがやってきた。

「お父様ね、昨日一晩考えておられたそうなんです。それでやっと決めて、『手術を受けたい』と言われたんです」
「まじですか!」
思わず声がでた。手術受けるの!? ほんとに?
「うん。うける」
かすれた声でオヤジがその日初めて返事をした。
でもリハビリしなくちゃいけないんだよ、だいぶ頑張らないといけないんだよ?
「うん、やる・・・」
「まじかー!」
びっくりしたけど、ちょっと嬉しかった。
よし、言質とったぞ!

「本人が望むなら、手術を受けさせてください。ご迷惑をおかけしてすみません。」
看護師さんに頭を下げたら、
「先生にお伝えしますね」
一転、手術を受けることがきまった。
「手術は明後日です」
昨日『押さえてある』といっていた手術室、キャンセルされてなかったんだと思った。

●家に帰りたい

でも、どうしてもどうしても信じられなくて、看護師さんが去ってから、最後にもう一回、オヤジに尋ねた。
「ほんとにいいの? ほんとに手術して、ちゃんとリハビリするの?」
するとオヤジは泣き出した。仰向けになったまま、まるで小さい子みたいに顔をしかめて
「かえりたい。りはびり、する」
かすれた声でえーん、えーんと泣き声をあげた。
うわあ、きったない顔…。

まあ、でも、そうか、家に帰りたいか。サンジに会いたいもんな。
「うん」
ちなみに昨日の花火はどうだった?見えた?
「みえた」
えーんと泣いていたオヤジは、ふっと泣きやんで言った。
「花火、みえた」
それはよかったね。花火も、久しぶりでしょう。きれいだった?
「しょぼかった」
あとで聞いたところによると、オヤジが花火をとても楽しみにしていたので、車椅子に座らせて下さったのだとか(3人がかりで!)。だのに思ったよりも花火が遠く、小さく見えたらしい。
「はなび、しょぼい、しょぼい」
泣き笑いするオヤジを見て、もしかしたら、しょぼい花火がやる気をくれたのかもしれないと、ちょっと思った。

コメント

  1. お父様もたくさんの葛藤があったのでしょうね。
    サンジくんと会いたい、家に帰りたいというのはお父様にとって大きな理由だったのでしょうね。
    手術が上手くいき、状態が良くなりますように。

    • 台場さん

      ありがとうございます。
      おかげさまで手術は成功したようです。
      水頭症は効果がはっきり出るようなのでこれから楽しみです!
      サンジも待っています。

  2. そうですか、お父上がご自分でおっしゃったとは驚きです(失礼)
    しょぼい(笑)花火が帰宅願望を前向きにプッシュするとは!
    何が背中を押してくれるか、わからないもんですねえ。
    そうであれば、シンプルに手術の成功とリハビリの成果で、念願の帰宅が現実になりますことをお祈り申し上げます。
    (当然、その先にはあれやこれやの物事を変えて決めて手配しなければなりませんが)
    (まあとりあえず、目の前のことを一つずつ)
    (今は手術が受けられたことだけでも充分快哉ということで)

    • POTEさん

      ね、私もめちゃくちゃ驚きましたw
      花火がしょぼかったからこそ、もっと近くに見にいけるようになりたいと思ったのかもしれません。
      これからどうなるかは分かりませんが、在宅を目指すのなら現実的な方法を考えていかなくてはいけませんね。
      本当にリハビリ頑張ってくれたらの話ですが。

  3. 私のオヤジにそっくりの思考のお父様、自分の父親のように思えてしまって、、
    本当に決断してくれて良かったです、頑張れば生きられる命、もったいないです。
    家に帰りたいって思いは相当強い魔力を持っていますね。うちの両親も毎年のように入院しておりますが、「家に帰りたい!」って思いが強すぎて、必ず回復して帰ってきます。
    もう少しゆっくり入院させて~~って思いますが。鬼娘がお世話する我が家、それでも帰りたいっていったいなんだ??って。でも、私の家にも猫がいます、この子に会いたいのでしょうね。
    これからますます大変なことが増えるかと思いますが、ご自分の体を壊されないようお祈りしております。お父様が元気な顔で帰ってこれますよう、、
    お父様のファンより^^

    • すみません、最後の一文で笑ってしまいました。
      手術を受けなくても死にはしないんですが、死ぬのを待つだけの余生になってしまうでしょう。
      それを避けたいと、自分で決めたことは嬉しいし、褒めてあげたいと思います。
      「家に帰りたい」って大事な思いですもんね。
      リンゴさんの猫さんもきっといい仕事をされているのでしょうねw

  4. お父様が自分の意志で、手術を決めたこと、これからのリハビリに、きっと、プラスに働きますね。

    お父様も、今まで、大変な治療とリハビリを頑張って来られた、お母様とサンジさんのご家族であり、何人分もの介護をして来られた、だださんとシシィさんのご家族ですから、皆さんの影響は受けているはず。

    ただ、だださんご自身のお身体、本当に、本当に、大事にしてくださいね。老婆心ながら、自分が倒れたら、何も守れないことを、ここ2年で痛感した者の気持ちです。

    と言っておきながら何ですが、勝手にお母様の生徒のつもりになっていて、介護猫シシィさんのファンでもある私としては、お二人の記事も、気長にお待ちしています。

    • ありがとうございます。
      一度やると言ったからには少しはやる気を出すと思うのですが…少しは…
      もともとが口先人間で意思がふにゃふにゃなので、どうでしょうかw
      でも母がハッパをかけまくるはずです。
      「リハビリ楽しいよ!」
      と洗脳してくれることを期待しています。
      ひと段落したら猫たちのことも書きますね!

  5. だださん、お久しぶりです。
    暑い日が続いていますね。
    お父様、良かったですね!スゴイ…手術のご成功お祈りしております!
    あとリハビリも、お父様が楽しく取り組んで下さいますやうに!←難しいかな?
    私事ですが、ちょうど一年前に、母を見送りました。バタバタ過ぎて…もう新盆です。色んなことを思い出しますが、後悔はありません。感謝です。
    コロナ禍真っ只中なのに、泊まり込みで看取りをさせて下さった病院の方には、感謝でした。
    私の手を握って母は逝きました。
    こうやって周りの方のお陰で、母亡き後も穏やかに過ごせることに感謝です。
    今度はそれを、自分の介護の仕事に生かそうと思っています。今年春から、特養に異動になりました。
    どうぞ、だださんも熱中症に、気を付けて下さいね。
    また、時々コメントさせて下さい。

    • こんにちは。
      お母さま、最後の時にさわさんが一緒でお幸せでしたね。
      いつになるかはわかりませんが、私もやり切りたいです。
      夏は入浴介助のツラい季節ですね…
      お互い体調に気を付けてお仕事がんばりましょう!

  6. お父様!まさかの決意の判断!わたしも読みながら「まじですか!!?!!?」と言いそうになり、心がグンんっと舞い上がりました。そのあとのお父様の様子に私も思わず目が潤んでしまいました。記事タイトルが、ここに行きつくとは…(^.^)。本当、良かったです。

    手術や大きな治療方針を決めることは、リスクを考えてしまうと私も堂々巡りになりそうです。だださんも相当な精神面でのパワー使われたことかと…。お疲れさまでした。
    だださんが一度は手術を無しに判断したことも、もしかしたらお父様が、一旦落ち着けたの、、かも??とも感じました。私も、テレビとかではなく、どこかで花火を見たくなりました。

    • にゃこさん、こんにちはー。
      「急転直下の決断ですね」
      と医師に言われましたが、ほんとにびっくりしましたw
      その数日間はバタバタしすぎて、さすがにアイスしか食べられませんでしたね…。
      私ももう何年も花火を見ていませんが、いつかまた家族で見られる日がきたらいいなと思います。

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