これまでのこと(4)

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ちょっと調子が悪いだけ

オヤジの調子がおかしくなったのは2週間ほど前だ。その木曜は朝から少し調子が悪かった。寝起きのせいかふらふらしている。でもそれだけで、朝ごはんも普通に食べていた。デイサービスから帰ってきたとき、スタッフさんからも
「ちょっと調子が悪いですね」
と言われた。でもちょっと調子が悪いのは「いつものこと」だった。

翌日は歩行が不安定だったため、家の中でも車椅子に乗らせたが、それもまあよくあることだった。またラクナ梗塞を起こしてるかもしれないけど、それも「いつものこと」。いつも2,3日は酷いが1週間くらいかけてだんだん戻っていくのだ。それよりも、梅雨なのに朝からシーツ4枚の洗濯や掃除に追われまくりで、大忙しだった。

だが2日経ってもオヤジの調子は悪いままだった。土曜の朝には激しくむせるようになり、ごはんが食べづらくなった。身体も、いつもはよく動くほうの左足でさえろくに動かない。さすがにこれはおかしい。どう見てもラクナ梗塞じゃない。
「脳梗塞では!?」
急遽、訪看さんにきてもらい、かかりつけ医とも相談して、検査のできる病院へ運ぶことになった。

A病院での検査

土曜の朝の病院だ。かなり混んでいる。1時間。いや、2時間。じりじりしながら順番を待った。ラクナ梗塞が大きな脳梗塞になっているのなら時間との勝負だし、家では母が一人ぼっちで待っているからそちらも気になる。

ようやく順番が回ってきた。CTを撮り、診察。かかりつけ医から連絡が行ったのだろう、メモを見ながら
「脳梗塞疑いですか?」
と言った。その声が、なんだかちょっと横柄な、面倒くさそうな言い方に聞こえた。
「動きにくいとか痺れがあるとか?」
私はこれまでのいきさつを話した。健側の動きが鈍いことも。
「そうですか。CTを撮ったんですけどね。なんともありませんね」
・・・なんともないですか。
「新たな梗塞は見つけられません」
でも動きがこんなに悪いし、なにを飲んでもむせるんです。
「咳がでるの?風邪ひいてるんじゃないんですか
いやいやいやいや!
たとえ私が介護素人だったとしてもですよ?
ムセと風邪の咳の区別がつかない人って、います?
私は
「誤嚥です」
と言い切ったが医師はとりつくしまもない。
「CTにうつらないので何もできません」
とだけ言った。
「はい、帰っていいですよ」
でも!でも先生!むせて水ものめないんです、ごはんも食べられないんですよ。のどに麻痺がきてると思うんです。
「食べられないのなら点滴だけして帰ってください」
で、点滴だけしてもらって帰った。

明日にはきっと

「帰ってください」って2回も言われたなあ、としゅんとした。そこは地元では一番の脳神経外科のある病院だから、信じるしかない。帰れって言われたらもう帰るしかない。ラクナ梗塞はCTにはうつらないものだ。だからこれは梗塞ではなくやっぱり「いつもの」ラクナ梗塞で。どうしようもないのだろう。きっと明日になったらよくなるはずだ。

自分にもオヤジにもそう言い聞かせて帰ったけど。オヤジは次の日もぜんぜんよくならず、相変わらずむせて、ゼリーのようなものしか喉をとおらない。昼間も寝てばかりになった。もう、どうすればいいのだろう。誰かに相談したところで、CTにうつらなかったし、大きな病院の先生に帰れって言われたし、どうしようもないとしか思えなかった。・・・明日こそ、よくなっているに違いない。

良くならなかった

心細くてまんじりとも眠れないまま月曜になった。明日こそ、という願いむなしく、この朝はもう「ぜったい脳梗塞だ」と思うレベルだった。朝から訪看さんにきてもらった。
「悪くなってるやん。脳梗塞みたいだねえ」
ですよねー。違う病院で診てもらいたいのだけれど、どうすればいいですか?

困ったことにCTでは梗塞はうつらなかったから。うちは田舎だし、地元で力のある病院が「ダメ」って言ったら、ほかの病院もそれに従うのだ。入院させてほしいといっても渋られるだろうと言われた。・・・誤診とか、なんかそんな感じになるから?

でももう家に居ていい状態だとは思えなかった。もう私の手には負えない。話し合って、救急車を呼ぶことになった。普通に受診したらまた帰される可能性があるけど、救急なら・・・どのみちオヤジはもう車椅子に座れる状態じゃない。

救急車が到着するまでのわずかな時間に私がしなければいけないこと、それはオヤジの入院準備ではなく「母の支度」だった。救急車に同乗すれば2,3時間は帰ってこれないだろうから、母一人で過ごせるように整えなくてはならない。トイレに連れていき、飲み物や本やビスケットなどを配置して、最後に
「お母さんを頼んだ」
と猫たちに託した。こういうとき、うちで頼れるのはもう猫しかいないから。猫たちは救急車のサイレンにおびえていた。

脳梗塞の診断がおりる

オヤジは救急車で市民病院へ運ばれた。ここの脳神経外科医は「なんともない」と言い放った先生と同じ病院から派遣されているが、こんどの先生はちゃんとMRIを撮ってくれ、「脳梗塞です」と診断してくれた。やっぱり脳梗塞だった、となんだかほっとした。これでやっと診てもらえる。

ただ、その若い先生もなかなか厳しかった。

「ドクターストップがでているのにタバコを吸うのは自殺行為です。それでも吸うのなら、救急車なんか呼んだらいけませんよ」
そのとおりです。すみません。

頭を下げながら考えた。
じゃあ私はどうしたらよかったのかな?
タバコをとりあげたら出て行っちゃってほかの人に迷惑かけるし、門を鎖で巻いて閉じ込めたら虐待だし、お財布をとりあげたらやっぱり経済的虐待っていわれる。病院に連れていってもろくに診てもらえなかったし、救急車をよばずに放置したら、ネグレクト、介護放棄になるんじゃないかな。私、そんなに悪いことしたかなあ?これでも精一杯、やってきたつもりなんだけどなあ。

介護って、難しいですね。

穏やかな日々

長々と書きましたが。ついに入院したオヤジ。様態は落ち着いているものの、現在はほぼ寝たきりでおかゆを食べる練習をしています。ベッドサイドに貼った母の写真をしょっちゅう眺めているそうです。

そして私と母はのびのびしています。

オヤジがいないとトイレが汚れない。おしっこ掃除しなくていい。仕事から帰って早々、黄色い川を踏む、なんてこともない。夜も転倒してないか気にしなくていい。朝も6時まで寝てていい。夜中に起きて睡眠時間を削らなくていい。毎日布団乾燥機をかけなくてもいい。母一人だけを見ていればいい。ああああなんて楽ちんなんだー!

まあ、現在はそんな感じです。この先どうなるかはまったくわかりません。

コメント

  1. だださん
    お疲れ様です、仙台の佐藤です
    お父さん大変でしたね
    タバコの件それで良かったって私は思います
    介護でどうにもならない仕方ない事あります

    お母さんの写真を眺めてるって変わらず
    ラブラブですな!

    暑いから私達も熱中症に気をつけましょうね!
    お父さんお大事にしてください
    本当にお疲れ様です!!

    • 佐藤さん、こんにちは!
      ありがとうございます、タバコはどの道を選んでも不幸な結末しか見えてこないので販売禁止にしてほしいくらいですね!
      母は面倒くさがっていますが、オヤジが楽しみに待っているようなので今日も面会にいってきます~
      お互い夏に負けずに頑張りましょう!

  2. ドクターの仰言ることは正論です
    が、
    その、正論からはみ出してしまう、はみ出さずにはいられない、そういう人をですねー。
    「それは自己責任でしょう。医療保険は正しく指示に従う人の為のものであって、破天荒に行動する人のフォローの為のものじゃないんですよ」
    で切り捨てられたら、情報弱者や認知症の人は野垂れ死ぬしかないじゃないですか。
    どう説得しても言うこと聞いてくれないからと行動制限したら虐待になるなら、バカらしくてやってられません。
    家族に限らず、そういうトラブルで困ってる病院施設はたくさんあるんでしょうねえ。
    ともあれ、多少罪悪感もありますが、楽ができる間は十分休養して体力気力を養ってください。
    介護者はXデーが来るまで、常に「俺たちの戦いはこれからだ!」なんですから。

    • POTEさんこんにちは!
      そう、正論なんだけどねー、じゃあどうしたら良かったのか教えてほしいです…。
      今はわりとすぐに虐待認定されちゃうので難しいです。
      >介護者はXデーが来るまで、常に「俺たちの戦いはこれからだ!」なんですから。
      は、はい~今すごくリラックスして油断してるんですがw
      何が起こるかわからないのが介護ですからね、体力つけておきます!

  3. だださん、かなり大変なあれこれの中、だださんご自身、ご無事で本当に良かったです。(倒れられたのでは?と、勝手に心配してしまってました)

    ここまでのあれこれ、詳細にお知らせ頂いて、そうだったのか…と。お父さまの容態、大変でしたね。気が気じゃなかったかと。病院の先生の救急車のお話は、なんだか私は先生に対して悔しいような…感情になってしまいました。
    救急車を呼んだのがお父さまだったとして、先生がお父様に言われたメッセージならまだニュアンスわからなくはないのですが…。タバコを渡さない結果どうなっていたのかを、知ったとして同じ言葉、出るのかな??と思ってしまいました。
    ひとまずではありますが、いつも私から見ていて最善を全力で取り組まれているだださんが、心身共に休めている今にホッとしています。ヘルパーさんもご利用されているようですが、やはり短時間?だと思うので…長めの時間で時折休めるような何か仕組みができることを願うばかりです。すぐには難しいのかもですが、、。長文失礼しました…。これからも、可能であればまたご無理ない範囲での投稿、お待ちしております

    • にゃこさん、ありがとうございます。
      タバコの件はへたにQOLとか勉強しちゃって考えちゃうからよけいに悩みましたね。
      無理に禁煙させたら本人だけでなくまわりからも
      「1本くらいいいのに、可哀そう」
      っていう人がでてくるし、お金を与えちゃう人もいるしw
      幸せと健康は必ずしも一致しないんですよね。
      今は母に月1でショートステイを利用してもらっているので、仕事はありますがその夜だけはゆっくりできます。
      旅行とかは不可能なんですが・・・。
      なかなか文章はでてきませんが今のうちにネタを溜めておきますね!

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