いつもとちょっと違う世界

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「明日はおでかけをしよう」
ボスが言い出したのは昨日の夕方のことだった。
うちのデイサービスはとにかく少人数なので融通がきく。
その日の天候や利用者さんの体調に応じて(そしてボスの気分に応じて)
「お天気がよくなったからそのへんを散歩しよう」
とか
「花が咲いたからお庭でお茶しよう」
とか臨機応変・変幻自在・気紛れ風まかせにレクを行う。
今回は
「明日、無料のコンサートがあるんだって。みんなで見にいこうか」
ということになった。

コロナで家で閉じこもり心身が弱っている利用者さんも多い。
今なら少しは大丈夫。
気をつけて気をつけて気をつけて、外に出よう。

「わあ、コンサートですって」
朝からみんな浮足立ってた。
利用者さんもスタッフも、なんだかはりきって浮足立ってた。
私もがんばって午前中に全員の入浴を終わらせた。

昼食の後、やってきたのは車で10分ほどのコンサートホール。
「わあ!すごい!」
利用者さんから声があがった。
広々としたホール、きれいな絨毯、ちょっとおめかしした人たち。
こういう所は久しぶりですか?と利用者さんに尋ねると、
「は、は、初めてなんです!」
と上ずった声で答えた。
頬が紅潮していた。

換気・消毒・検温・マスク着用義務としっかり対策をとっているから入場に時間がかかった。
いそいそと席に向かう。
わくわくしながら開演を待つ。
待ってる時間が一番楽しい。
プログラムをずっと眺めてた。

いよいよ開演のブザーが鳴る。
ドレス姿の人たちがあらわれて、童謡や民謡やサックスを聞かせてくれた。
「あのドレス素敵ねえ」
利用者さんのうっとりとした声が聞こえてきた。
残念ながら時間の都合で1部だけしか見られなかったけど。
帰りの足取りも軽かった。
「こんなところ、来たくても来られないから嬉しかった!」
と、疲れもみせず声が弾んでいた。

すごかったのはその後だ。
わりと重いアルツハイマーで一人でトイレのできない方が、コンサートの後は半分くらい自分でできたのだ。
朝はできなかったことが、コンサートを聞いた後はできたのだ。
普段はぜんぜん口がきけないのに、コンサートの後は文章をしゃべったのだ。
その方、いつもすぐにマスクをはずしてしまうのに
「ホールを出るまでは我慢してくださいね」
とお願いしたら、ちゃんと我慢できてた!

いつもとちょっと違う場所。
いつもとちょっと違う雰囲気。
いつもとちょっと違う世界。
そういったものが利用者さんを刺激したのだと思う。
お出かけは最高のリハビリだからね!

でももちろん、皆さんすぐに忘れちゃう。
そんなことはいいんだ。
そのとき楽しければ、そのとき幸せであればいいんだ。
認知症の方は「今、このとき」を生きているから。
幸せな瞬間を少しでも多く積み重ねていこう。

本日の猫写真は、私の幸せな時間を邪魔するサンジさんです。

「ゲームより僕の方が可愛い」

・・・・コントローラー返してください・・・。

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