オヤジは杖ユーザーである。
可動式の四点杖。
狭い廊下なら杖がなくても歩けるが、六畳間を横切るだけでも杖は要る。
庭でタバコを吸ったり、デイへ行くには絶対に必要。
それなのに。
忘れてしまう。
置き忘れてしまう!
大事な杖をソファの横に置き去りにしたまま、一人フラフラ~フラフラ~と不安定に彷徨っている。
「危ないから杖もってってー!」
このままではいずれ出先で杖を失くすかもしれない。
なんとか杖の存在を覚えていてほしい私は、とっさにこう言った。
「ほら、大事な杖子ちゃんだよ、忘れないで!」
多点杖の杖子ちゃん。
そう呼ぶことにした。
母が身の回りのものすべてに名前をつけたがるから、私もうつったのだろう。
「杖、杖、杖!」
と言いまくるよりは、
「杖子ちゃん持ってってー!」
のほうがちょっと楽しくて、柔らかい感じがする。
だからといって忘れないわけじゃないんだけど。
その話をしたら母が嬉しそうに
「私も『この子』に名前をつけたのよ」
と話してくれた。
『この子』とは新しいクッションのことだ。
麻痺のある腕に挟むクッション。
赤いクッションの『赤ちゃん』が経年劣化でダメになってしまったので、新しくオレンジ色を買ったばかり。
・・・今度はどんな名前になったの?
オレンジ色のクッションだから、オレンジちゃん?ミカンちゃん?
すると母は得意そうに宣言した。
「 ゆ づ る! 」
なぜ・・・なぜ・・・その名前なんだ・・・?
「デイのおばあちゃんたちが考えてくれたのよ。
『あんたの新しい枕はなんていう名前なんや?』
って聞かれて、まだ決まってないって答えると、
『それはいかん、みんなで決めよう』
ってなって。朱色だからしゅーちゃんとか(朱色?)、あーでもないこーでもないってさんざん考えて結局、
『柚子の色に似てるし、あんた羽生結弦が好きだから』
って『ゆづる』に決まったの。いい名前でしょ!」
うん・・・まあ、そうね・・・柚子ってこんな色だっけ?
なんかごめんなさいねファンの方。
すると母はニコニコと笑って言い放った。
「大丈夫だよ。クッションは汚いものじゃないし、それどころか役に立つモノなんだから。羽生結弦は人の役に立つことを喜ぶ人だよ。ファンの人だって、あの羽生さんのファンなんだから、そんな小さいことに目くじら立てたりしないよ」
そういうわけで今夜は我が家のモノたち2つ、杖子とゆづるが名前をもらいました。
ちなみにこの子はサンジの次だから、そしてウィーン旅行の直後に我が家にきたから、「シシィ」と名付けました。
コメント
初めてコメントさせて頂きます。
色々大変ですが、物にも名前をつけて可愛がる事は楽しいですね!
いつも明るいお母様と同じで病気で母を15年前に亡くした私ですが、あの頃ダダさんのブログがあれば前向きになれたのにと少し残念に思います。
私がお父様と同い年で、主人がお母様と同い年です。ダダさんと年の近い娘と同居しています。
長い事ロム専でしたが、思わずコメントしてしまいました。お忙しいのにごめんなさい。
はじめまして!ありがとうございます!
母の擬人化癖はヌイグルミに名前をつけるようなものだと思います。
マッサージ機にまでつけてましたから。
夕暮れさんは我が家と同世代のご家族なのですね。
また遊びにいらしてくださいね!
お返事ありがとうございました。
また、おじゃましますね。