どうしても言わないといけないこと

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家のことはもうイロイロありすぎて疲れたからちょっとお休み。
今日は気分を変えて仕事の話・・・利用者さんの話を。

私が働くデイサービスに通うSさん。
歌がとてもお上手なため、イベントではソロパートを任される『歌姫』だ。

そんなSさんが突然、
「昨日、ビデオを見たんです」
と仰った。
私はとても驚いた。
Sさんには重い認知症があり、自分からお喋りされることはあまりないし、昨日のことを思い出すことなんてぜんぜんないからだ。こんな貴重な機会、絶対に逃してはならない!

「どんなビデオですか?」
と私は尋ねた。ほんとに覚えてるのかな、と思いながら。
「あの、あの、さわやかさんの、ビデオなんです」
Sさんは一生懸命に言った。
そうか。あのビデオか。
「バザーのビデオをご覧になったのですね!」
「そう、そう、そうなんです」
Sさんはニコニコとうなずいた。

「それで、あの、どうしても、さわやかさんに、言わないと、いけないことが、ある」
言葉が出てこないのか、Sさんは一語一語、懸命につづけようとした。
「あの、あの、あの!」

Sさんが見たのは秋のイベントで利用者さんたちがコーラスを歌っている動画だ。DVDに焼いて利用者さんに配った。この動画で、Sさんは『歌姫』の本領を発揮してソロを見事に歌いきり、拍手喝采を浴びている。輝くようなすばらしい笑顔が動画に残っている。

ビデオを見て記憶が難しいSさんの心にもあの日の輝かしい気持ちが蘇ったのかもしれない。それで私たちに何かを伝えたくなったのだ。
「どうしても、言わないと、いけないことが」
Sさんはもう必死だった。
言葉はのどまで出かかっている。
出かかっているいるのに忘れてしまう。
私は心の中で拳を握りながら応援した。
なんとか最後まで言ってほしかった。
「あの、あるように、思うんですけど、あの、あの」
がんばれ。
がんばれ。
がんばれSさん!
「あの、あの、爪が、われてて、それが、気になって」
爪!
ツメーーー!

なんとか思い出そうと必死になりながら、Sさんは親指のツメをしきりに触っていた。どうやら割れているらしい。それが気になって気になって気になって・・・言いたいことを忘れちゃった。

ま。
いいか。

最後までは聞けなかったけど、私は嬉しかった。Sさんがあんなにも一生懸命、何かを伝えようとしてくださったことも嬉しかったし、バザーで歌ったことやビデオを見たことを思い出したことも嬉しかった。だから
「ありがとうございます」
と伝えた。
「ほんなら爪を切りましょか」
「はい」
そういうことで話は終わった。
爪がキレイになってSさんは喜んだ。Sさんの笑顔がまた見られて嬉しかった。

認知症の方はすべてを忘れてしまうし、言葉にすることが苦手だけれど、心の中にはちゃんとちゃんと残っているのだろう。

本日の猫写真。

私たちが帰宅すると
「子供たちはまだ帰らない?」
と、ちょっとだけ背後を探す癖がついちゃったシシィさん。