朝8時半。
母をデイサービスへ送り出し、私も仕事に行こうとしていた。バッグを持って「さあ出よう」というとき、ピンポーン、と玄関チャイムが鳴った。
・・・こんな時間に何だろう?
不審に思いながら玄関をあけるとまったく知らない女性が立っている。
「あの! そこで! 転びはったみたいで、大変なことに!」
女性は動転していたのか言葉がうまく出てこない様子。それでもすぐにわかった。
・・・オヤジだ。
オヤジが転倒したのだ。
ゴミ出しに行ったまま帰ってこないからまた煙草を吸ってるんだとばかり思っていた。
スニーカーをつっかけて走る。オヤジは玄関から10メートルくらい先の道路脇にいた。隣家の壁によりかかり、うなだれて、
「血まみれやん!」
おびただしい血で顔面がまっ赤に染まっていた。どこから出血しているのか気になったが、いつまでも車道にいるわけにはいかない。とにかく家に入ろう。
朦朧としているオヤジに肩を貸し、なんとか居間まで担ぎ込んで寝かせる。
血を拭いてみると眉間の下と鼻の下に擦り傷があった。ごく小さなキズで、出血も少しずつじわじわと出ているだけだ。普通ならぜんぜんどうってことのない傷だろう。
だが、オヤジは「血液サラサラの薬」を飲んでいる。3種類ものんでいる! 実は来週、心臓のカテーテル手術を受ける予定で、その調整のためなのだ。血液サラサラの薬というのは、血液が固まりにくい=血が止まりにくい薬である。ほんの小さなキズでも大出血になってしまった。
「病院へ行こう」
家で手当なんかしても血が止まるわけがない。そんな状態じゃない。
ヨロヨロしているオヤジを車に乗せた。
頭も打っているかもしれないし、脳梗塞になりやすい状態だと医師から言われているため、かかりつけの脳神経外科へ行った。仕事は休んだ。
冷え込みのきつい朝だったせいか、救急車がひっきりなしに急患を運んでくる。CTを撮るのに2時間待った。そのあいだに看護師さんがキズの手当をしてくれた。だがどうしても血は止まらなかった。
医師は脳のCT画像を見ながら
「新たな梗塞や出血はありませんね」
と言った。
「ただ、頭部外傷の場合は後から出てくることもあるので、気をつけて見ておいてください」
と。
そのあと先生は私だけに言った。
「脳の萎縮がみられます。認知症判定テストを受けますか?」
はい、よろしくおねがいします、と私は答えた。
先日オヤジに長谷川式の認知症テストをやらせてみたら全然ダメだったし、発達障害の気もあるので、この際はっきりさせたかった。それもあって脳神経外科へ連れてきて問診票の「ひどい物忘れが気になる」という項目にチェックを入れておいたのだ。
さて脳梗塞がないのは幸いだったが、血が止まらない。擦り傷ってもともと血が止まりにくいものだし、眉間の下という実に微妙な場所なので、ギュッと締めたりできないのだ。
医師には
「明日になっても出血が止まらなければまたいらっしゃい」
と言われ、看護師さんには
「なるべく押さえていてくださいね」
と言われて帰った。
オヤジは帰宅してからずーっとテレビを見てぼーっとしている。
出血が始まってから12時間が経つが、現在もジワジワと出血は続いている。傷口を押さえているように言われたが「痛いからヤダ」っていうし、傷口を洗うことも垂れてきた血液を拭くことも「ヤダ」と拒否。薬をのむことも、水を飲むことも全拒否。
・・・水分とらないと死ぬで?
「うん」
うん、ってどないやねん。何度もすすめると「もうほっとってくれ!」とブチギレて怒鳴ったから、放置することにした。
「本人がどうしてもイヤだというのなら、それが寿命というものなんでしょう」
と獣医さんが言ってたっけ。
ところでオヤジが転んだのは私の出勤直前だった。あと30分で訪問介護のサービスに入らなくちゃいけなかったのだけど
「すみません、父が血まみれなので休みます!」
と上司に電話して交替してもらった。ドタキャンもいいところだ。ほんと申し訳ない。
明日も病院に連れていかなくちゃならないだろうし、来週はオヤジの入院と手術、再来週は認知症検査で、連日仕事を休まなくちゃいけない。そのぶん給料が減る。ダダ減りである。まずい。やばい。我が家の家計がピンチである。
介護しながら働くって、本当に難しい。
ブチギレるオヤジに腹がたったので、ちょこっとだけ仕事に顔を出した。デイサービスだ。利用者さんのお顔を見たらすごく気分が和んだ。デイは、私にとって癒やしの時間なのだ。
なんにも働いてないくせにレクで作ったどら焼きをもらって帰った。おいしかった!
家の事情を話すと上司に
「なんでそんな次から次に・・・あんたお祓い行ったほうがいいんじゃないの?」
と言われた。
お祓いかあ。
それもいいかなあ。
でも、我が家って、ちょっとすごくない?
オヤジに認知症判定が出たら
・先天性脳性麻痺(重度重複)
・高次脳機能障害
・片麻痺
・認知症
かなり品揃えがいいんじゃない?
なんだかんだ大変だけど。
いろいろ気になるけど。
悩ましいけど。
これもきっとネタになる。
いつかはきっとネタになる。
私にとって介護は、神様から与えられた課題なんだろう。
ピンチはチャンスだ。
今日とこれからの経験が活かせる日が、間違いなく来る。
そう信じているから。
だから、明日も頑張ろう。
コメント
品揃えって…品揃えって…言い得て妙ですけど、いやいや、これはちょっと大変過ぎ。
頑張るのはだださんだけなのに、どうしてこうも重なるんでしょう。
一つ一つ片付けていくしかありませんが、無理し過ぎませんようご自愛ください。
ありがとうございます。
早すぎない?という親の老化に私もびっくりです。
まだ70才ですからねえ。先が長いです。
私ひとりで頑張っても多分ムリなので、なるべく周りに助けてもらう方向でいきます(笑)
今日も親戚のおばさんに助けてもらいました。ありがたいことです。
おひさしぶりです(^^)
お父さん、大変でしたね(T^T)
ブログ読んだ時、うちと似ててびっくりしました。
うちの父も、脳梗塞をやっているので血液サラサラの薬飲んでいます。
医者から、転ばないようにと言われていたのに、
元々足が悪いのもあって、ちょっと離れたところにいたら、
バタ!とすごい音がして、見に行ったら
道路で倒れて全く動かず。
頭打って血を流しました。
すぐに救急車呼んで、ホチキスみたいな針で縫われて帰宅しました。
救急で縫ったので抜糸した1週間後、
脳外科でMRIとったり、硬膜下血腫の心配もあるので、
いつもより短い間隔で病院へ通いました。
普段でも色々大変なのに、
穏やかな日々が続くと思うと、
やってくれちゃったりします(笑
そもそも転ばないように、って医者は言うけど
転びたくて転ぶ人なんていないんですけどね(^^;)
でも一般的に男性の方が、自分は大丈夫っていう気持ちがあって
こういうことになりがちなのかな、とも思いますね。。。
おひさしぶりです!
みんな同じようなことになるのですね・・・
すーさんのお父様は縫わなくちゃいけなかったのですか。それは大変でしたね。
うちは切り傷の処置も脳外科でやってもらっちゃ
いました。
MRIは来週です。
>そもそも転ばないように、って医者は言うけど
転びたくて転ぶ人なんていないんですけどね(^^;)
でも一般的に男性の方が、自分は大丈夫っていう気持ちがあって
そうそう、そうなんですよね!
うちのオヤジも「俺は大丈夫だ!」が口癖なんですよ。
それでちゃんと靴を履いてくれたらいいのに、転びやすい草履を履いて転ぶんだから。。。困ったものですね。