妹が叫ぶ理由

重度重複障害のある妹・U子。施設入所してそろそろ６年になる。月に１度は帰宅させるが、毎回なかなか大変だ。
「たった１日くらい」
と思われるかもしれないが、たった１日だからこそ大変なのかもしれない。会わない１か月の間に免疫が薄れるというか。忘れていた大変さが身に染みるというか。

先月の帰宅のとき、妹が
「こんどは外食につれていって」
と言ってたので、私たちはそのつもりだった。帰宅途中の車内でも妹と
「ランチ食べにく？」
「行く！」
という会話をしていたし、店まで決まっていた。
なのに家に帰り着いたとたん
「外食なんていやだー！！！」
と体をのけぞらせて大暴れ。
ちょうど姫抱っこで移乗させてる最中に暴れるもんだから、私は支えきれずに落としてしまった！ 布団の上だから大丈夫だったけど
「痛いやんかもうーーー！」
怒ってまた叫ぶ叫ぶ。
いや、あんたが暴れるからだよね？
「ギャアアアアア！」
ブチギレて叫びまくる妹。ご近所の皆様ごめんなさい・・・。

妹の雄叫びは、ただの大声ではなくヒステリックな金切り声だ。頭に突き刺さるようなキイキイ声。そばで聞いてると頭や心臓が痛くなる。ストレスで血圧があがるから両親は別室に待避させた。

妹はほとんど言葉を話せないため叫んでしまうのだが、叫び始めると止まらないし、とくに理由がないのに叫んじゃうときもある。
「子供と同じで、ちゃんと話せばわかるでしょ」
などと言う人もいるが、話してわかるようなら苦労はしないし施設にも入れてない。自制できないのが障害である。脳性麻痺で体が勝手に動いちゃうのと同じで、自分でもなんだかわからないけど叫ばずにはいられないらしい。

なんとか妹を黙らせようと、なだめたり音楽をかけたりコーヒーを飲ませようとしてみたが全然きかないので、だんだん私のほうがキレそうになってくる。
「いいかげんにせんと、なぐるぞ！」
脅したらちょっとだけ静かになったけどそんなの一瞬。むしろ私が金切り声の直撃をくらって耳が痛くて涙でてきた。姉妹喧嘩はいつも私が負けるのだ。

妹の足元で寝るサンジ。叫んでも動じない。蹴られても平気。

こんなんで帰宅させる意味があるのかなと思った。たまには親の顔を見たいだろう、猫にも会いたいだろう、家でゆっくりしたいだろう・・・って思ってるんだけど、こんなことなら帰宅させないほうがいいのかな。帰宅させるのは、もしかして私のエゴなのかな？

そう思っていたが、10分くらいでピタリと叫ぶのを止めた。
そのあと香ばしい臭いがぷーんと漂ってきた。オムツを開けるとてんこ盛りだった。

妹はお腹が痛かったのだ。すさまじい雄叫びは、トイレで「うーん」と気張ってる感じだったのかもしれない。こんな体調では外食には行けないと訴えていたのかもしれない。

妹は慢性便秘で下剤（ラキソベロン）を常用している。それが効きすぎるのか、家ではいつも爆発的な下痢。今日も何回も大変なことになって、ズボンを３本にシーツを２枚、洗濯しなくちゃいけなかった。・・・消臭ストロングよ、ありがとう・・・。

これ私の周りの在宅介護家庭はだいたい持ってる気がする。効き目も普及率もすごくない？

ほとんど怪獣みたいな妹だが、施設に帰すときはちょっとシュンとしている。いい子にしてるんだよ、風邪ひかないようにね、また来月迎えにいくから、と言ってもうなだれたまま「うん」って言うだけ。寂しくなるからママの顔は見ないんだって。ずっとこれくらい大人しかったら可愛いし、楽なのになあ…。