母72才車椅子、今年もゾンビと戦う

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10月下旬。母が待ちに待ったイベントがやってくる。
ハロウィンである。
私としては、世の高齢者と同じように
「ハロウィンなんて若い子が騒いでる外国のお祭りでしょう、気持ち悪い」
とか言っててくれたら楽なんだけど。
うちの母はウキウキしながら叫ぶのだ。
「ハッピー・ハロウィーン! USJに行こう!」

ユニバーサル・スタジオ・ジャパンではこの季節限定のイベントをやっている。その名も「ハロウィン・ホラーナイト」。母は2年前に初めて行ってすっかりハマり、今年も行くと決めていた。

しょうがないから連れていってやるか。
しょうがないから魔女の帽子を買ってやるか。
しょうがないから魔女の杖も持たせてみるか。
せっかくだからメイキャップシールを貼ってみようか!
母のブログにノリノリの写真を載せています。ありがとうダイソー)

夕方6時のUSJ。日暮れとともに「ホラーナイト」が始まった。薄暗い園内にゾンビたちがぞろぞろと現れる。血まみれのゾンビやチェーンソーを振り回すゾンビ、不気味な怪物たちが、「うおー」と雄叫びをあげたり、通りがかりの人に襲いかかったりする。

パフォーマーの演じるゾンビたちはメイクも動きも本格的なのでけっこう怖い。客はキャーキャー悲鳴をあげて逃げまわり、さながら園内ぜんぶがお化け屋敷だ。

言うまでもないが客の9割はゾンビを楽しめる年代、つまり若者である。どこもかしこもめちゃくちゃ混むし、興奮した人たちが叫ぶし、転ぶし、ぶつかるし、大騒ぎである。正直、車椅子のおばあちゃんが行くべきところじゃないと思う。なのに母は、
「めちゃくちゃ楽しいねー!」
って言ってる。若い。

人混みをかきわけて道を渡ろうとしていたら
「ゾンビが来たああああ!」
「ぎゃああああ!」
群衆が押し寄せてきた。
「わあ、逃げよう」
と思っても車椅子ってそう簡単には方向転換ができない。よっこいしょ、とやってるうちに人の波が割れ、目の前に巨大なゾンビがあらわれた。太鼓腹のピエロ・ゾンビだった。

この写真はフランケンシュタインなん?

巨体のピエロ・ゾンビはゆっくりと身を乗り出し、逃げ遅れた車椅子のおばあちゃんを不思議そうに覗き込んだ。これが映画だったら私たちは確実に殺される場面だ。
だが、
「えい!えい!」
母は100均で買った「魔法の杖」をゾンビに向かって振り回した。退治しているつもりらしい。ピエロはまたゆっくりと体を持ち上げて、のしのしと歩いて他の客を襲いに行った。
私たちの後ろにいた若者たちが
「車椅子にはちょっとだけ優しいな」
「ゾンビもそのへんの倫理は守るな」
と言った。
そりゃあ、高齢者を本気で驚かせたら違う意味でコワイことになるからな。うちの母だって、てんかん起こしたらゾンビより怖いよ?

夕食はハリー・ポッターエリアの「三本の箒」で。

若者たちがギャーギャー逃げ惑うエリアからちょっと離れると、ドラキュラやメドゥーサなど、ゴシック・ホラーの怪人がたむろするエリアがあった。そこはわりとゆっくりできたし、車椅子のおばあちゃんでも殺される心配はなかった。ちなみにメドゥーサはめっちゃ美人だった!

満面の笑み。

「ゾンビデダンス」の時間になると、今まで「ウォー」とかいってたゾンビや怪物たちが勢揃いし、ノリノリで踊りだした。キレッキレのダンスだった。ピエロも怪人も観客もみんな一緒になって踊っていた。母も車椅子ながら踊りまくったことは言うまでもない。ほんま若いわ。

「夢のように楽しかったねー」
と母は言う。
私は悪夢のようにくたびれた。
USJ、ちょっと混雑しすぎやわ…。
2年前とぜんぜん違うわ…。
でも楽しかった!

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