「わしはもうお迎えを待つだけの身だ」
と、90半ばの利用者さんが話しはじめた。
「そやけどあんたは違う。あんたはこれからずうっと生きていくわけだから。言うておこうと思うよ。あんただけやなしに今の若い人みんなに言いたいことやけど」
・・・私は掃除の手を止めて聞いた。
「あんたらは先が長い。きっとまあ、いろいろありますやろ。時には困ったり、苦しんだりすることもな。仕方がありませんわ、生きてるんやもの。誰しもそう平坦な道は歩けません。
それで何かをしようと思ったら・・・新しいことを始めるときでも、困ったときでも、いつでもや。とにかく『やる気』を見せなさい。そして動きなさい。行き詰まったときこそ動くんです。それが道を拓く唯一の術です。
『困った困ったどうしよう』と、動くのをやめてじーっとしてても何も変わりません。たとえば今の若い人はニートとかいうて働かへん人もおるでしょ。仕事がないからって、じーっとしとっても仕事は降ってきませんやん。
困ったときこそ動くんです。動き方がわからんときは、やる気を見せるんです。誰かに話しかけるんです。相手の袖をつかまえて叫ぶんです。「助けてくれー」いうて「俺はこれがしたいんやー」いうて訴えるんです。
そしたら、今つかまえた人ではなくても、その人の知り合いとか友達とか、話を聞いた人が手を貸してくれるかもしらん。
「こういう人がおるらしいぞ」
と話題になって
「じゃあ私が」
っていう人が現れるかもしらん。
人と人とはそうやって縁を結んでいくのですよ。
長い人生にはね、人の人とのつながりが何よりも大事な財産です。
人と出会うには家に閉じこもっておったらあかん。
縁を結び、お金じゃない本当の意味の宝を得るためには、自分で動くしかないんです」
無一文から這い上がった、94才の利用者さんの言葉だ。
しっかり刻んでおこうと思った。
お金じゃない本当の意味の宝。
たくさんほしいな。