ショートステイから帰ってきた母がこんな話をした。
「隣の席のおばあちゃんがね、ごはんの時間になると
『ごはん嫌やー』
って泣くの。
『ごはん食べたくないー』
って。
なんでって、普通のごはんじゃないのよ。
どろどろなの。
全部どろどろのスープみたなの!
お皿はみんなと一緒なんだけどね。
ごはんもどろどろのお粥だし、おかずもみんな、色とりどりの、どろどろ!
いわゆるミキサー食だろう。
ゴックンしにくい方用の介護食。
「私も頭の手術で入院してたとき、あんなドロドロごはん食べてたから、思い出しちゃって。
本当につらかった。
『ごはんですよ』
って出された料理が全部どろどろで。
『こんなの食べなくちゃいけないのか』
って思うとみじめで、情けなくて、本当につらいのよ。
味なんかわからないよ。
思い出しただけでもつらくて、つらくて、おばあちゃんが本当に気の毒だった」
母には入院中の記憶がほとんど無く、唯一覚えているのがミキサー食の記憶だという。
よっぽど強烈だったのだろう。
でも食べなくちゃ生きていけないからね、病気も治らないし。
「そうなの。その泣いてたおばあちゃんも、
『これ以上食べられなくなったら、胃に穴をあけて流し込むしかなくなるよ』
って看護師さんに脅されてたよ」
胃ろうかあ。
「私なら、どろどろごはんを食べるくらいなら、胃ろうの方がいい」
母はきっぱりと言い切った。
で、結局、そのおばあちゃんは食べはったの?
「うん、自分でスプーン持って、いっぱい食べてたよ。私より食べてた」
なんだ美味しいのか!よかった。
病気が治ったら、胃ろうは取ることができる。
若い人にはいいと思う。
だが寿命を迎えた高齢者に胃ろうをつけることは「無理な延命装置」とて賛否両論。
人間の尊厳とはなんだろう。
実際どちらが快適に暮らせるのか。
個人差があるだろうし、なかなか難しい問題だと思う。
・・・せめてムース食なら今はいいのがあるのになあ。