母がマンガを読んだ夜

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あれはいつのことだっただろう。
たしか母が文庫本を読めるようになって間もなくのことだったと思う。
ある日、母はデイサービスから1冊のコミックを持って帰ってきた。
・・・これ、どうしたの?
「あのね、デイで仲良くなった人(利用者さん)が『すっごくおもしろいから読んでみて』って貸してくれたの」

『テルマエ・ロマエ』か!
おもしろいよね!
「マンガ読むの久しぶりだから楽しみ!」
母はうきうきとページをめくった。

・・・が。
進まない。
ぜんぜん進まない。
どうしたの?

「何がなんだか、わからないの」
高次脳機能障害が邪魔をしていた。

・コマを読む順番がわからない
・セリフの順番もわからない
・登場人物の見分けがつかない
・誰のセリフかわからない
・左下のコマが見えない
・「ジャーン!」「バーン!」など擬音語や擬態語が何を表しているのかわからない
・などなど

本はきれいに並んだ文字だけを追えばいいが、マンガは絵と文字の両方を理解しなければいけない。
当時の母にはハードルが高すぎたのだ。

それからも何度か
「マンガが読みたい」
と言い出したときにチャレンジしたけど、なかなか難しかった。
電子書籍のマンガは字が小さく、いちいち拡大するなどの操作ができなかった。

それが。
昨夜。
「西村京太郎は読み尽くしたから」
と久しぶりにマンガに挑戦させたところ・・・

「呼びたいように呼ぶ人たち、だってー!」

読んでる!
読んでるよ!
「ここ、おもしろいね!」
クフフフと笑いながら教えてくれるのだ。
ちょっとびっくりした。

読んでいるのは佐々木倫子の名作『動物のお医者さん』

私が学生の頃に好きだったマンガで、もう黄ばんじゃってるんだけど。
なにしろ動物がいっぱい出ていて可愛いので母は大喜びだ。
でも登場人物の見分けはついているのだろうか?
・・・このひとは、ハムテルか二階堂か、どっちかわかる?

「ハムテル!」

即答した。
正解した。
「あんまり見分けはつかないけど、名前呼ぶし、なんとなくわかる」
とのこと。

じゃあ、このページの最後(一番左下)のコマはどこ?
「ここ!ここおもしろいの!」
これまた正解だ。
ちゃんと見えている。

読むのにむちゃくちゃ時間がかかるし、どこまで理解できているかは謎だけど。
それでも読めている。
楽しめている。
すごいことだ!

「チョビかわいいねー!」
とか言っている。

「ぼくだって可愛いもん」

脳出血を発症してから8年。
母はまだ、進化できるのだ。

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