最近、母は本を読んですごす日が多い。
 仕事に追われているとどうしても家のことは後回しになって。
 最低限の介護をしたあとは、本とテレビにお守りをさせてしまっている。
 「大丈夫だよ、私はミステリーさえあればいつまででもお留守番できるよ」
 と口ではいうが、いつだって刺激を求めている母である。
 「夢のなかでバイオリンを弾いたの」
 「遊びにいく夢をみたよ」
 「レストランでお食事を食べようとしたら目がさめちゃった」
 と毎日楽しい夢をみてしまうあたり、現実が退屈で退屈で死にそうなんだろう。
とはいえコロナでお出かけできないし、リハビリもさぼりっぱなし。
 近頃は2人バイオリンをする余裕すらあんまりなくて。
 すっかりへばっている私が一緒にできることといったら、せいぜい映画を見ることくらい。
 「この映画、殺し合いばっかりでつまんない」
 えええ、好みが合わないわ。残念・・・。
今日は一緒におにぎりを作ったけど。
 いまいち、うまくいかなかった。
 「今日は三角おにぎりばっかりになったねえ。俵が一つもないわ」
 と母はこぼすが、三角や俵どころか、固形を保っているおにぎりは一つもない。
 割れて崩れて崩壊してバラバラになった米粒たち。
 おにぎりなのに箸が要る。
 普通に茶碗も必要だ。
 オヤジは黙って食べていたが。
家族が家にいるのでシシィは幸せそう
「こんどドライブに行こう。海をみにいこう」
 と言い出してから3か月。
 いつ海を見られるだろう。
 ・・・ごめんな、母。