「もう、やめたの」

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認知症のご主人を介護中の奥さんが、
「もう、やめたの」
と話してくれた。
「『こうやったらいいんじゃないか、ああやったらいいんじゃないか?』って考えるの、やめたの。本当は、リハビリさせたり、皿を運ぶのとか主人にできることを探してやらせた方がいいんだろうけど、その方が主人のためにはなるんやろうけど! でも、やめたの

奥様は、にこにこ笑いながら言い放った。

「だってしんどいもん!」

と。

「ケアマネさんとか周りの人は、ああせいこうせい言うけどね。『リハビリしなさい』いうて自分でするわけちゃうやん。皿を運ばせたって、ぜんぜん違うことばっかりするやん。私、イライラして、『もう、違うでしょーー!』って叫んじゃうの。毎日毎日」

・・・わかります、わかります、わかりまます!

「そりゃ最初の何年かは頑張ったけどさ、私もトシとってくるし、この先何年続くかもわからんし、もう、しんどいやん? だからリハビリやりたくなかったらせんでもええし、皿を運ぶのも私がやっちゃうねん。そのほうが楽やん」

・・・ですよね!そうですよね!

「いろいろ考えるのやめて、頑張るのやめたらね、怒らんようになった。おとうさんも私も。機嫌よう暮らしとったらええやんか。なんか悪さしとったら、しとったでええし。そう簡単に死なんやろ。死んでも寿命や、なあ?」

奥様はご主人に笑いかけた。
ご主人は何のことだか分かっていない様子だが、
「ああ、ああ」
とうなずき返し、やっぱりにこにこと微笑んでいた。

脱走して疲れてねむねむサンジ

介護はいつまで続くかわからない。
だからこそ、あきらめてもいい。
手放してもいい。
時には現状維持できなくてもいい。
笑顔を取り戻すほうが大切なのだから。

「やめたら、楽になった」

と奥様は教えてくれた。

コメント

  1. そうですよね。認知症の人に頼んでも、違うことをされてイライラばかりしています。イライラせず、根気よく耐えられるのなら、頼むことを続けてもいいと思うけれど、かなりの寛容を身に着ける覚悟がいりますね。危機一髪の重大な場面ではやめたほうがいいかと思います。

    本人のためと思ってやっていることが、かえって互いの関係を悪くしているのなら、実は全くためになっていないのかもしれませんね。思い切ってやめてみるのもいいのかな。自然と距離をとるようにはしています。

    • そうなんですよね。
      距離感って大事。
      「根気よくつきあってあげて」とか口だけ出す人がいるんですけど(笑)
      当事者は「やってられるかい!」ってなりますよね。
      お互いに無理をしない道が一番いいと思います。

  2. こんにちわ
    ほんとにそうですよね。
    認知症がすすんで 色々分からなくなっても 心は同じですものね。 楽しいも嬉しいも判っているし
    叱られたり 違うと否定されたりしたら いやな気持になって 怒ったりしますものね。
    優しくゆったりした気持ちで接したら にこにこしてますものね。

    • そうですよね。
      言葉を失っても感情は最後まで残ると言われています。
      家族がニコニコしてれば、要介護者も幸せになれると思うんです。
      そしてそれが一番大事なことかと。
      優しくゆったり、過ごしたいですよね。

  3. 読んでいて涙が出てきました
    認知症の母よりも認知症みたいなややこしい父に
    毎日毎日、イライラしてしんどくて、でも私しかいないので。寛容できないならある程度はあきらめたらいいんですよね。優等生な介護者だと疲れてしまいます。ちょっと気持ちが楽になりました。いつもありがとうございます。

    • 認知症じゃない家族のほうがややこしくて苛立つの、めちゃくちゃよくわかります。
      うちもオヤジが中途半端に元気だった頃は毎日ケンカしまくってました。
      「死なない程度に放置!死んでも寿命!」
      これくらいでいいんそうですよ。
      といってもうちの場合はお金が絡んでるのでなかなか放置できませんでしたが(笑)
      いつかはきっと楽に暮らせる日がきます。

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