オヤジが最近、よくコケる。
家でもコケるが外でもコケる。
大きなケガには至らないものの、「コケるから」という理由で歩かなくなり、どんどん筋力が落ちてさらにコケる、という悪循環。
だが、そんなことは言っていられない!
よく言うじゃないか、「死ぬことを恐れては生きることができないと。
「転倒を恐れては歩くことはできない」のだ。
さあオヤジよ、歩くのだ!
歩いて歩いて、衰えた足の筋肉を復活させよう!
「やだ」
そうか。嫌か。
困ったものである。
散歩をしろ、体を動かせ、少しくらい健康のことを考えろ。
これはサラリーマン時代から周りにずっと言われていた言葉である。
上司や先輩や、同僚や友達や、親戚や兄姉に、ずーっと言われつづけてきたけど、誰のいうこともきかなかった。
体が衰えたからといって動くわけがない。
とりあえず、そうだな。
「コケるから歩きたくない」
を解消しよう。
去年、歩くのが危なっかしくなったとき、「杖を使ったら?」といわれて
「杖なんか爺くさいからイヤだ!」
と拒否したオヤジ。
ノルディック・ウォーキング用のスティックならなんとか折り合いをつけて持つようになった。
が、もはやウォーキング用の不安定な杖では今のオヤジを支えることはできない。
ということで多点杖を借りてみた。
杖の先が4つに別れていて、自立する。
安定感があるから、ちょっとした坂道とかにも負けないと思う。
昔の多点杖は重たかったけど、今のはびっくりするほど軽量化されている。
「なかなか、ええな」
オヤジの反応も悪くない。
・・・どう?
早速、この杖ついて歩いてみたくなったんじゃない?
「うーん」
そう簡単にはいかないか。
なにしろオヤジはハシビロコウ並に動かない人だからな。
私は一計を案じ、オヤジに小銭をわたして
「タバコ買ってきて?」
と頼んだ。
オヤジにはハシビロコウと同じように決まったルーティーンで動く男だ。
朝ごはんが終わったらまずタバコ。絶対にタバコ。何がなんでもタバコなのである。
大好きなタバコを死守するためには歩くことも厭わないだろう。
なにしろトイレだって綺麗に使えるようになったくらいだから。
案の定、
「よっしゃ!」
オヤジは二つ返事で引き受けると、新しい杖をつき、タバコ屋を目指してヨボヨボと歩き始めた。
そして
「コケなかったでー!」
と元気に帰ってきた。
今のところ、タバコ以外にオヤジの原動力は見つからない。
そんなにしょっちゅうは無理だけど、週1くらいで買いに歩いてもらえたらいいと思う。
少しくらい転んでも。
少しくらいケガをしても。
歩くをことを止めてはいけないのだ。