『今昔ものがたり』の企画のため、利用者さんのお宅へ昔話を聴きとりにいった。
日曜だというのに上司も一緒にきてくれた。
「これはまあ趣味みたいなもんだから!」
と言って。
趣味というなら、それこそ私の趣味みたいな企画なので申し訳ない。どうしてもやりたくて始めたことだから、読者さんはもちろん、利用者さんにも上司にも喜んでもらえるものを書きたいと思う。
高齢の利用者さんと向かいあい、長い人生で見聞きしてきたことを聞く。
今日聞いたお話も、とても感慨深いものだった。
いつでもそうだ。
すべてのお話がそうだ。
誰もが苦労しているし、誰もが数奇な人生を送っているのだと思う。
最初のほうで聞き取りをした利用者さんが、こんなことを仰っていた。
「人間てのは、馬鹿なもんでな。
ともすると他と比べたがる。
『あの人は金持ちでええなあ』
『あの人は楽な生活をしてずるいなあ』
て思うわけや。
その人のほんとのことなんか知りもしないでな。
その人が実際にはどんなに努力しているか、どんなに苦労を積み重ねているか、どんな悲劇に見舞われているか・・・何も分からんわけでしょう?それなのに人の表面だけを見て、ねたんだり、ひがんだりするのは、愚かなことだ。
同じことで、他人と比べて分のほうが不幸だとか、自分はダメな人間だとか、そんなことを思うのは意味がないことだ。
人は、一人ひとり違うんだから。
自分にしかわからない悲しみがあり、幸せがある。
一人ひとり違う形の人間であり、人生があるんだからね」
利用者さんのお話を聞き取りするごとに、この言葉を思い出す。
悲しみも。
幸せも。
一人ひとり違う形をしている。
それは誰と比べられるものではないのだと。
歴史を動かすのは教科書に載っているような力のある人たちだけれど、歴史をつくっているのは、その時代に生きている人間一人ひとりだ。