物語の森をつくろう

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十年以上前の話だが、私たち家族は半年ほど祖父の看病をしていた。祖父の状態は悪く、絶え間ない痛みのほか、せん妄と氷食症と不眠に悩まされ、殺してくれと叫んだり窓から飛び降りたがったりしていた。24時間体制の監視が必要で、それはまあ寝る暇もないくらいの忙しさだった。

私は病室に一冊の本を持ちこんだ。もちろんゆっくり読むことなんてできないけれど、祖父がうつらうつらする一瞬、うまくいけば2、3分、長ければ5分、短ければたった10秒ほどの隙を見てページをめくったものだ。

本を開けばそこには別世界があった。オムツと薬の臭いも怖い看護師さんも死にかけのお爺もいない。すべてが遠ざかり、嫌なことやつらいことは全部きれいに忘れられる。たった10秒であってもそれは幸せな時間だった。私は本に、物語の世界に救われた。

喫茶店のサンドイッチ
(よく祖父と一緒に食べた喫茶店のサンドイッチ)

また、私は数年前に本が読めなくなったことがある。仕事のしすぎで、燃え尽き症候群というのかノイローゼになってしまったからだ。うまく眠れなくなって、好きだったものがだんだん好きでなくなって、それからとうとう本まで読めなくなってしまった。仕事を辞めたらすぐに治ったけど。

私にとって本を読むことは、心の健康管理をするようなもの。ひとつ物語を読むごとに、心の中に一本の木が育つ。本をたくさん読めば読むほど、たくさんの木々が育って、それは豊かな森になる。この森がある間は私は大丈夫。そう思っていられる。

さあ、次はどの本を読もうかな。

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