「こんど『トライやる』の子がデイに来るよ」
とボスが言った。
中学生が1週間、さまざまな会社や施設やお店に入って働き、職業体験をする制度がある。私の働くデイサービスにも中学生が働きにくるというのだ。
・・・どんな子かな?
正直、楽しみ半分、不安半分だった。だって、平均年齢90才くらいの人たちとばかり付き合っているから、十代の若い子なんかどう接したらいいかわからないよ!?
ときどき話に聞くじゃないか。コミュニケーションのとれない若者がいるっていう話。挨拶もしないとか。目も合わせないとか。敬語がぜんぜん使えないとか。そんな子が来たらどうしよう。利用者さんが不快になっちゃったらどうしよう?
・・・そんなことを思っていたのだけど。
杞憂もいいところだった!
14才のMちゃんは、初めての日、たった独りでデイに来た。14才で大人ばっかりのところに独りで来れただけでも私は尊敬しちゃうんだけど、それどころか、彼女は顔をあげてハキハキと完璧な挨拶をしてみせた。仕事が始まると、人の目をみて話し、敬語を使いこなし、利用者さんの話をきいて楽しそうに笑った。空気を読み、気をきかせ、こまごまと動いて利用者さんの世話を焼いた。
「この子・・・使える・・・!」
いやもう、私より使えるよ。
私より大人だよ。
どうしよう。
それに可愛いの!
利用者さんのそばにペタンと座り込んで昔話に聞き入る様子は、おばあちゃんの家に遊びに来たひ孫みたいだった。若い子がいるって良い風景だなあ。
おやつの時間にはみんなでコーヒーを飲むので、Mちゃんにも淹れたら、飲みにくそうにしている。
砂糖とミルクをいれようね、って渡したら
「わたし、コーヒー飲むの初めてなんです…」
って言うからみんなすごく慌てた。
「どうしよう、親御さんに叱られる!」
「飲酒強要ならぬコーヒーの強要とか!」
「ホットケーキ3つあげるからこの件は内密に!」
でも、すごくしっかりして賢い彼女でも、グリム童話を知らなかった。『ブレーメンの音楽隊』を知らなかった。幼い頃にグリムとイソップに親しんできた親世代の私としては衝撃を受けた。
昨日が最終日だったんだけど、思わず
「次はバイト代払うから働きにきてね」
って言ってしまった。利用者さんたちにも可愛がられていたし、びっくりするほど仕事覚えてたし、ほんまに働けそうな勢いだったのだ。中学生、侮れない…。
14才の子が介護職に興味があるといっても、まあ今だけだろうなと思う。このまま真っ直ぐに育って、いろいろな経験をして、いろんな世界を見てから、いつか帰ってきてくれたらいいなあ。
本日の猫写真。
オヤジに抱っこされてるサンジ君。
サンジが私と遊んでいると、すぐに
「あたしもー!」
とシシィが邪魔しにくるんだけど、オヤジと遊んでるときは来ない。
サンジにとってオヤジは「安心して抱っこしてもらえる人」のようだ。