「決めた!」
突然、母が言いだした。
・・・何を決めたの?
「この子の名前は『チビシロちゃん』に決めた!」
この子、というのは、トイレに置いてある小さなファンヒーターだ。
・・・こんなのに名前をつけるの?
「頑張ってるから名前で呼んであげようと思って。小さくて白いから『チビシロちゃん』。忘れると困るからマジックで書いといてー」
お断りである。
だってファンヒーターだよ?
無生物だよ?
「生きものには名前をつけるのに、無生物に名前をつけないのは変じゃない?」
・・・えええ?
母は以前から、クッションなどにも名前をつけて可愛がる癖がある。黒犬のヌイグルミはクロちゃんで、赤い座位保持クッションはアカちゃんで、今回のファンヒーターはチビシロちゃん・・・ああ、色で呼んでるだけか。
とか思ってたら
「やっぱりこの子の名前は『チビシロマンボ』にする!」
なんか増えてた。
チビシロマンボ?
長くない?
マンボって何よ?
「昔『ちびくろサンボ』って絵本があったでしょう。あれ好きだったんだけど、差別でダメになったけど。だからサンボをやめて、マンボ」
・・・意味がわかりません。
たぶん母は寂しいんだと思う。友達にも孫にも会えなくて、外食もできなくて、遊びに行けなくて、退屈しきってるから、せめてファンヒーターなんかに名前をつけて楽しもうと努力しているのだろう。
母はトイレへ行くたびにファンヒーターに声をかけている。
「チビシロマンボちゃん、頑張ってる?」
「チビシロマンボちゃんのおかげで温かいねえ」
「マンボ踊ってる?」
・・・ファンヒーターが踊るかー!
思い切りツッコミを入れながら『マンボNo.5』を歌い踊るのは、もちろん私である。めんどい。
本日の猫写真。
どうでもいい話なんだけど、さっきスーパーの駐車場で、バックで駐車していたら、車が停まらなくなった。
「ブレーキを踏んでるのに動きつづけてる!」
まさかブレーキとアクセルを間違えてるのか?
焦りまくる私。
そうこうする間にも車はゆっくりとバックしつづけている。
「あああああ、後ろの壁に激突するーー!」
大慌てでパーキングに入れてサイドブレーキを引いた。
そのとき気がついた。
私の車が動いているのではない。
私は停まっていて、両サイドの車がいっぺんに動いただけだった。
錯覚って怖い。