身体障害者施設で暮らす妹に会いにいく。
コロナ渦での面会はようやく3回めだ。
先月は妹が発作を起こしてややこしかったが、今回は大丈夫だった。
施設の玄関先に面会スペースが設けられていた。本来は屋外だったが、寒くなってきたので、開いたり閉まったりしている自動ドアのすぐ横になった。手作り感あふれるビニールシート越しに妹と対面する。
妹は元気そうでよくしゃべった。オーストラリアに住む姪っ子たちともLINEでわいわいと会話をした。
「ゆーこさーん! 今日は何したの?」
と6才の龍ちゃんから質問されると、妹は一生懸命に考えて返事をした。
「あのね、※〒〇♪~だから、〒§※〇で~」
妹は重度の障害があるため、言葉が極端に不自由だ。
何を言っているのかほとんどわからない。
意味のある言葉かどうかもわからない。
だが、それでもいいのだ。
妹のおしゃべりは、互いに話したり聞いたりして楽しむことが主目的だから、わからなくてもいいのだ。
龍ちゃんは幼いながらもそのへんを弁えており、「何言ってるの?」とか聞き返さずに
「・・・うん、・・・・うん、・・・そっかあ!」
ちゃんと聞いてくれていた。
妹は嬉しそうに微笑んでいた。
・・・昨日の『世界ふしぎ発見!』見た?
私は妹の大好きなテレビ番組の話を振った。近頃は海外ロケもできなくて大変そうだよね。早く元に戻るといいのにね。
「かえる」
唐突に妹が言った。
「かえる!」
『かえる』。妹ははっきり発音できる言葉がほとんどなく、僅かな言葉にさまざまな意味をもたせている。この場合の「かえる」はきっと『早く番組が元に戻ればいいね』くらいの意味だったかもしれない。
なのに私は早合点して、こともあろうに
「かえる? 帰りたいの?」
オウム返ししてしまった!
施設入所している子に「帰りたい?」は禁句中の禁句だろうに。
私の手で入所させたのに何言ってんだ!
妹は泣きそうな顔をして下を向いてしまった。
私は自分を殴りたくなった。
「で、でもでも今帰ってきても何もないよ。今年はクリスマスもお正月もないし」
「そうそう、龍ちゃんたちも日本に来れないのよ飛行機が飛ばなくて」
「私たちもどこにも行けないし、みんな同じよ」
フォローになってない。
全員しゅんとしたまま施設を後にした。
・・・ごめんなさい。
妹が最後に帰省してきたのは3月初め。
もう8か月も家に帰っていないことになる。
8か月間、施設からほぼ出ていないはずだ。
ここで暮らしているのは障害があるといっても若い人たちばかりだ。
若くて元気な人たちが閉じ込められているのはどんなにつらいだろう!
健常な若者たちは今やコロナなんかどこ吹く風でGOTOトラベルに行き、GOTOイートで無限くら寿司を堪能し、映画館で『鬼滅の刃』を見ているというのに・・・。
早く。
早く。
早く終わってくれコロナ!!!!!
猫たちもU子に会いたいよね。
コメント
「かえる」って禁句なだけに、敏感に反応してしまうんでしょうね。
わたしたちも「帰ってきてほしい」っていう気持ちがあるし。
ツラいですね。
そうなんですよね。
妹も施設ぐらしが長くなってきて、もう「帰りたい」と言わなくなっていたのですけれど。
せつないです。