オヤジ、どこいった!?

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オヤジはいわゆる「まだらボケ」だ。調子のいいときは普通に会話もできるし、よくわかっていることも多いのだが、ダメなときはてんでダメ。近頃はダメなときのほうが多くなってきた。

朝からシャワーに入っているので様子をのぞくと、風呂の蛇口から水をくんで洗面器で水浴びをしている。
シャワーの使い方がわからない?と尋ねると
「・・・シャワー?」
シャワーって何だっけと首をひねっている。
せめてお湯を使おうよ、と言っても
「お湯?・・・ああ、お湯か!」
なんだかビックリしたような顔をしている。
教えてあげると一応は思い出すんだけど、すぐにまた忘れる。
まあ、夏でよかった。

土曜日はオヤジにとって大事な将棋サークルの日なのだが、やっぱり忘れていた。
教えるとやっぱり思い出すのだが、ちょっと心配になる。
・・・一人で出かけさせて大丈夫なのだろうか。
「将棋が終わったら電話して。車で迎えにいくから。スマホだけは絶対になくさないように!」
くれぐれも念を押しておく。
スマホさえあれば、いざという時に助けが呼べるし、GPSで居場所がわかる。迷子になっても大丈夫だ。

・・・そう、思っていたのだが。

サークルが終わる時間になってもオヤジからの連絡がなかった。
どうしたのだろうとGPSを見れば、3時間前からまったく更新されていない。
3時間前のGPSなんてなんの意味もない!
慌ててオヤジに電話をかけると
「NTTドコモです。この電話は電波の届かないところにあるか、電源が入っていないため、お繋ぎできません」
なんと!
オヤジはスマホの電源を切ってしまっていた

やばい!
オヤジの居場所がわからない!

慌てて将棋サークルのほうに電話をかけると
「さっきお帰りになりましたよ」
との答え。
まずい!

サークルの活動場所は駅前のビルだ。ちゃんと電車代も渡しているから、調子がよければ電車で帰ってくるだろう。だがオヤジは、電車の乗り方がわからなかったり、駅の場所がわからなかったり、電車という交通手段を失念していたりして、これまでに徒歩で帰ってきちゃったことが何度かある・・・片道5キロもあるのに、だ。

それだってコロナ前の、元気だった頃のこと。今はステイホームのおかげでひょろひょろのモヤシみたいな足なのだ。この暑さの中を5キロも歩いたら途中でくたばってしまうだろう!

しかもオヤジは自分の家の住所や電話番号をすっかり忘れてしまっている。あちこちに書いて持たせてるけど思い出しもしないだろう。下手をするとこのまま道に迷って・・・徘徊ということになるのだろうか・・・。

やばい!
やばいやばいやばい!

私は車をとばして駅へ向かった。歩道を歩く人影を一つ一つ確かめていったが、その中にオヤジの姿はない。2往復したけど見つからなかった。

電車に乗ったのかもしれない、と駅にも行ってみたけど見える範囲にはやっぱりいない。
もう乗ってしまったのか?
ぜんぜん違う方向の電車に乗ってたらどうしよう?
よくある話だもんね?

オヤジー!どこいったーーー!

何べんかけても
「おかけになった電話は、電源が入っていないため、お繋ぎできません・・・」
しか言わない電話をあきらめて、ケアマネさんに連絡するべきかどうか、真剣に考え始めた。

捜索を開始するなら早いほうがいい。
今ならまだ間に合うかもしれない。
・・・でも、ちゃんと電車で帰ってくる可能性も高い。

どうしよう。
どうしよう。
どうしよう?

悶々としているうちに5時が迫ってきた。
訪問の時間だ。
仕事に行かなくちゃ。

って、どうすんのよ私!!!!

とりあえず仕事いって2分でオムツ交換して帰らせてもらおうか?
それとも他の人に代わってもらうべきか?
土曜なのに急に代わりの人なんて見つかるだろうか?

車の中で唸っていたら、スマホが明るく着信した。
・・・家からだ!

「おう、帰ったでー」

オヤジの軽~い声が聞こえてきた。
ちゃんと電車で帰ってこれたのだ。
ホッとするやら何やらで、怒りが湧き上がってきた。
なんでスマホの電源切ってるのよー!!!!
「えー、知らん」
そやな。
知らんわな。
とりあえず手は洗った?
「洗ってない」
洗え。
何なんでも手を洗えーーーー!
石けんでゴシゴシだーーーー!
スマホに向かってまた吠えた。

帰宅後、オヤジのスマホを見たら、電源は落ちていなくて
「SIMカードが入っていません」
と表示されていた。
何が起こったのだか・・・。

猫のようにゆっくり昼寝をしてみたい

ほんの1時間、居場所がわからないだけでもすごく不安だった。
認知症がすすんで徘徊が始まったら、きっと家族は神経がすり減って、何もできなくなってしまうだろう。