母のデイサービスがない日、私はとっても忙しい。訪問ヘルパーの仕事を1件こなすたびに大急ぎで帰宅して、母をトイレに連れていき、また次の仕事へ行く・・・ということを日に4,5回繰り返すのだ。
毎回1時間くらいで帰れたらいいのだが、臨時の仕事が入ったりして、長時間家をあけてしまうこともある。
その日、母はオヤジと一緒にテレビを見ていた。ベッドで寝ていてくれたら安心なのだけど、どうしても番組の最後まで見たいというから、車椅子のまま置いてきた。
「おかあさんをよろしくね!」
とオヤジに頼んで。
「よっしゃ!」
オヤジも返事して。
そしたら、その日に限っていろいろあって、2時間半ほど帰れなかった。けっこう長いお留守番である。
「ただいま! おかーさん大丈夫?」
玄関ドアをあけると・・・驚きの光景が広がっていた。
車椅子の母が部屋から脱走している!
番組が終わって暇になったのだろう。車椅子のロックをはずし、自分で動かしてみたらしい。
「ちょっとトイレに行こうと思って」
と母は説明した。
母は片麻痺のため右手しか動かない。
車椅子をうまく操作できない。
だから前へ進まずにバックしちゃった。
しかもバックしてみると、ちょうどうまい具合にドアが開いていたので、廊下に出てきてしまった。
どうして止めてくなかったのよー!
とオヤジにいうと、
「え? かあさん、家におったの?」
オヤジは母の存在を忘れていた。
このままバックを続けると玄関から転がりおちてしまう危険がある。写真を見ていただければわかるが、猫たちが心配して玄関マットでブロック(?)してくれていた。サンジなんて、私が玄関をあけるなり「この人なんとかしてニャー!」と訴えかけてきた。
ちょっと前までは2人でちゃんとお留守番してもらえたのになあ(介護しあう夫婦)。オヤジの症状がぼちぼち進んでしまって、今ではオヤジより猫たちのほうが母を見てくれている。