うちのサンジは元・野良猫だ。
家猫にするのはけっこう大変だったけど、ここ10年近くはおとなしく家にいてくれている。
外に出ようと試みることも、年に1回くらいになっていた。
ところがだ。
最近、頻繁に脱走するようになった。
きまって私のいないときに脱走する。
仕事から帰ってくると玄関ドアの前にちょこんと座って
「あけて?」
と言うこともある。
どこから抜け出してるんだろう?
と最初は思ったけど、すぐにわかった。
オヤジである。
オヤジがサンジを出しちゃうのである。
最初のうちは、うっかり出ちゃったんだと思ってた。
「外に出るときはサンジに気をつけて」
と頼んだし、玄関に貼り紙もしたし、現代において猫がお外にでたらどんな災難が降りかかるか何度も説明した。
怖いのは車や野良猫や病気だけじゃない。
ご近所には大の猫嫌い爺さんがいて
「野良猫退治のために、庭に毒エサをまく」
とまで宣言されている。
もしそんなもの食べちゃったら!
だがそれでもサンジは脱走をつづけた。
ちゃんと帰ってくるのだけれど、それでもやっぱり心配だ。
ご近所トラブルの大本でもあることだし。
今日またサンジが外に出ていたのでオヤジに尋ねたら
「さっき出した」
と言う。
出た、じゃなくて、「出した」。
わざとである。
意図的である。
故意である。
「なんで出すの!」
私はキレた。キレてしまった。
猫のためなら我を忘れるのである。
「猫にとって外が危ないのが、どうしてわからないの!?」
そしたらオヤジもキレた。
「わかっとるわ、それくらい!」
わかってるなら、なぜ出すの!?
「・・・かわいそうだったから」
外に出たいのに出られないのが、家に閉じ込められてるのが可哀想だったから。
オヤジはもともと優しい人である。
いや、優しいというより、甘いのだろう。
他人にも自分にもどっちにも甘い。
かつて母に
「トイレに連れていって」
と頼まれたら断れず、介助しようとして転倒し、大騒ぎになった。
それと同じように、サンジに
「外に出して」
と言われたら断れないで出しちゃうんだって。
わりとアホじゃない?
それだけじゃない。
オヤジは自分に重ねているのだろう。
動きたくても動けない、コロナのせいで遊びにいけない自分と、外に出られない家猫を重ね合わせたのだろう。
だけどそんなものは自己満足にすぎないと私は思う。
猫は、外に出れば出るほど家にいるのが苦痛になるのだから。
中途半端が一番いけない。
だから私は怒った。
もしもサンジが死んだらどうするんだー!責任とれるのかー!
オヤジは言い切った。
「責任なんかとれるか!!」
なんだそれは。
無責任か。
無責任男か。
植木等か。
「男なら責任をとれや!」
オヤジは昔から『男というものは』が口癖の人だった。
『男ならこう、おまえは女だからこうしなさい』。
私の大嫌いな言葉。だからそれを逆手にとった。
「男なら男らしく責任をとってサンジを探してきて!ぐるっと一周みてきて!」
男の責任を果たすべく、オヤジは杖を片手に出ていった。
・・・やった。やったぞー!
私は内心、ほくそ笑んだ。
ついにオヤジを歩かせた!
梅雨からこっち、オヤジはぜんぜん歩かなくなった。
天候のせいもあるのだろうが、自分に甘い人だから
「リハビリなんてやりたくない」
と言ってのける。
どんなに散歩に誘ってもついて来ない。
おかげでどんどん筋力が弱り、春頃の半分の距離しか歩けなくなった。
それで、なんとかして歩行訓練をさせなければいけないと思っていたのだ。
オヤジは15分くらいかけてそのへんを1周して帰ってきた。
「サンジ、おらへんかった」
まあ、そうやろな。
猫がそう簡単に捕まるわけがない。
オヤジはただ歩いただけである。
「これからも、サンジを逃したら罰ゲームとしてご近所1周だからね」
脱走阻止とリハビリの見事なコラボじゃない?
サンジは2時間後に平気な顔で帰ってきた。
よかった・・・。
コメント
こんばんは。
も少し穏便に、サンジくんにハーネス着けて散歩に出てもらう…………ことができるくらいに、お父様が歩けるようになると良いと思います。
サンジくん、無事で良かった。
首輪はしてましたよね。チップは未装着。
やっぱり、出しちゃダメですよ、お父さん!
脱走中の胃が縮む想い、無事に帰ってくるまで、辛かったことでしょう。お仕事帰りに大サンジ。
お疲れ様です。
ありがとうございます。
サンジにハーネス・・・考えたことはあるんですけど。
今の感じだとオヤジが転ぶだけでしょうね。
何度も脱走してるので、だんだんと行動範囲が広がってるんじゃないかと思います。
かつて庭に「脱走防止ネット」を張っていたので修復してみましたが、サンジはそれすら越えていくんですよね。
そんで超ゴキゲンで帰ってくるんですよ。
「楽しかったー!」
って。困ったものです。