こんな時こそ、歌おう

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訪問介護の利用者・Tさん宅に雛人形が飾ってあった。
それを見て、今日は食事前の口腔体操のかわりに歌を歌おうと思った。

Tさんは御年97才。いろんなことを忘れてしまって近頃はあまり言葉も出てこない。そろそろ声を聞きたいと思っていたところだ。

「ひな祭りの歌、歌えますか?」
尋ねると、Tさんはキョトンとした顔で私を見た。
突然、歌といわれてもピンとこないんだろう。
それでも

♪ 灯りをつけましょ ぼんぼりに

私が歌いはじめると「・・・ぼりにい♪」と一緒に歌った。

♪ お花をあげましょ 「桃の花♪」

そうそう、その調子!

「♪五人囃子の笛太鼓 今日は楽しいひなまつりい!」

しわがれてはいるが、大きな声が出た。こんな声、久しぶりだ。
そのあともTさんは一人で何度も何度もひな祭りを歌った。
歌詞はあんまり思い出せないらしいが
「♪五人囃子の笛太鼓 今日は楽しいひなまつりい!」
だけは5回くらい歌った。
ご飯を完食して、再び横になったあとも、まだベッドの中で口ずさんでいた。
子供の頃のひな祭りを思い出しているのだろうか。
それとも娘さんが小さかった頃のひな祭りを懐かしんでいるのだろうか。
とっても幸せそうな歌声だった。

幸せそうに眠るサンジ君

そのあとデイサービスへ行くと、やっぱり利用者さんたちが歌っていた。
うちは「歌うデイサービス」だ。
ソプラノとアルトに分かれて1日中歌いまくる。
「星の世」「朧月夜」「赤い靴」「花の街」「線路はつづくよどこまでも」「みかんの花」などなど。
ゲームの途中で歌い、ゲームに負ければ歌い、お風呂の中でも歌う。ギターにあわせて歌い、食事の前に歌い、体操をしながら歌い、帰る前にも歌う。

「おやつ、おいしかったなあ」
「おいしかったなあ、幸せやったなあ」
「歌って遊んでおやつを食べて、ほんま幸せや」
「幸せなら手を叩こう♪」
「幸せなら手を叩こう♪」
帰りの車中でさえ自然に合唱がわきあがる。
本当はヘルパーなんていらないのかもしれない。
歌さえあれば幸せなのかもしれない。

幸せになっちゃった善哉。白玉は利用者さんに作っていただきました

利用者さんたちといっしょに歌っていると、めんどくさいことをぜんぶ忘れられる。
コロナウィルスとか、デマとか、買い溜めに走る人たちとか、そんなことを忘れることができる。
不安に思っても仕方がないことを忘れて、ただみんな一緒に
「幸せだなあ」
と思っていられる。
だから歌おう。
来週も、来月も、春も夏もずっと歌おう。
こんな時代だからこそ、歌おう。
幸せなら手を叩こう。