鬱のような認知症のような症状がでて、頭がぼんやりしているうちのオヤジ。今一番の楽しみは、将棋サークルに行くことである。場所は駅前、週1開催。もうちょっと元気な頃は車で通っていたが、今はもう運転なんかさせられないので私が送迎する。
今日も昼過ぎに送っていった。終わる頃にまた迎えにくるよ、というと、驚いたことに
「自分で帰る」
と言う。
「電車で帰れるから大丈夫」
駅前なのでJRでも私鉄でもどちらでも帰ることができる。
今日のオヤジは将棋サークルが楽しみなせいか、口調もはっきりしているし、足元も(普段よりは)しっかりしている。将棋をすれば頭も冴えるようだから、本当に大丈夫かもしれない。
私は信じることにした。
頭がぼんやりしているとはいえ、いい年をした大人だから、たまには一人で出かけたいだろう。寄り道をしてタバコを買いたいのかもしれない。一人の時間を楽しむことも大切だ。
それで
「ちょいちょい連絡をいれるから電話に出てね」
と言って送り出した。乗り慣れた電車だから間違えることもないだろう。
将棋サークルが終わるのはたいてい4時半。
その頃を狙って電話をすると、
「まだ終わらないんだ。大丈夫、ちゃんと帰れるから」
と言った。
さっきよりも声が元気で明るい。
これならと安心した。
ところが裏切られた。
5時になっても5時半になっても帰ってこないし電話もつながらない。
いくらなんでも遅いんじゃないか。
「迷子になってるんと違う?」
母まで心配しはじめた。
どうしても嫌な想像をふくらませてしまう。
乗り過ごして終点まで行っちゃったとか。
違う駅で降りちゃったとか。
最悪、駅までたどり着かずにどこかで倒れてるとか…
スマホに追跡アプリを入れておくのを忘れるなんて、私の馬鹿!!!!
探しにいこうかと考え始めた頃、ようやく電話がつながった。
・・・大丈夫? 今どこにいるの!?
「大丈夫や」
こともなげにオヤジは言った。
「JRを降りたとこ」
もう着いてるのか。
JR駅はちょっと遠いね。
迎えにいこうか?
「うん、きてほしいな」
JRの駅でいいんだよね? 私鉄ではなく?
「うん、JR」
すぐさま車で迎えにいった。
が、いなかった。
さして広くもないロータリーにも、停車中のバスの中にも、コンビニにも、オヤジの姿はどこにもない。
再度電話をかける。
何十回かコールしてやっと出てくれた。
・・・どこにいるの!?
「JRおりて、道を渡ってちょっと行ったとこ」
なぜだ!
なぜ駅にいない!
なぜ歩いた!
なぜ道を渡ったー!
ぷんぷん怒りながら道の向こうを探すが、やっぱりいない。
すぐそこにいるはずなのにどうして会えないんだろう?
オヤジったら異次元に飛ばされたのか?
仕方がないのでもう一度、電話をかける。
やっぱり数十回のコール後、やっと出た。
・・・道の向こうってどこ? 今、何が見えてる?
「えっとね、ポリボックス」
交番の近くにいるの?
「そう!」
交番はここにはない。
JR駅にはない。
交番があるのは、私鉄駅。
家からちょうど反対側のぜんぜん別の駅。
・・・もしかして私鉄に乗った?
「うんそう」
JRって言ったやんかーーー!
あれだけ確かめたのにーーー!
私鉄駅から家までは徒歩5分かからない。
よぼよぼオヤジの足でも10分で歩ける。
「そんなら歩いて帰れ!」
私は電話にむかって怒鳴った。
バカバカしかったけど無事でよかった。
徒歩のオヤジは、車の私とほぼ同時に到着した。
「寒かったあ」
と言いながら。
寒いはずである。
ジャケットを着ていない。
ジャケットはどこに置いてきたの?
「え・・・なんか着てたっけ?」
今日はもう疲れたから、また明日、探しにいくことにしましょう。
本日の猫写真。
「ファンヒーターがピーピー鳴ったら延長ボタンを押してね」
って頼んでるんだけど、知らん顔して押してくれません・・・猫もオヤジも。
コメント
お父様、無事に見つかって、良かったです。
はい!ありがとうございます。