私は何年か前まで旅番組が大嫌いだった。
というより、つらくて見ることができなかった。
だって私は、もう旅にでられないから。
介護のために、あんなに好きだった旅を捨ててしまったから。
自分で選んだ道にもかかわらず未練があった。
むちゃくちゃ大きな未練があった。
だから他の人たちが楽しそうに旅しているのを見ると、羨ましくていたたまれない気持ちになった。
そんな自分がまた嫌で、旅番組が始まると大急ぎでチャンネルを変えたものだ。
でも今は違う。
3年前に母をつれてウィーンへ行ったし、東京には2度も行ったし、私はバンコクに弾丸一人旅をした。
その気になればまだ道はある。
旅ができる。
母だって連れていける。
そう思えるようになったから、旅番組が苦痛ではなくなった。
今日も旅番組を観ていたら、母が
「いいねー!行きたいね」
と口にした。
私は早速、スマホで行き方を調べてみた。
車で1時間半。それからフェリー。車椅子でも乗れるかな?
・・・乗れそうだ。でもトイレはダメだな。船に乗る前にどこかで済ませておかなくちゃいけない。
「ねえ、ここのお店は車椅子でも入れそうだよ!」
母も番組をみながらバリアフリーチェックをしている。
いや、本当に行くわけじゃない。
ただ「行ける」ことを知っておきたいだけだ。
バリアフリーの「バリア」って最終的には心の中にあるものだと思う。
差別とかそういう意味もあるんだけど、障害者の側にも
「車椅子だから、どうせ無理」
とあきらめてしまうことが妨げになるのではないだろうか。
高齢だから。車椅子だから。介護されているから。介護をしているから。
だから、どうせ無理。
そんなあきらめと偏見のバリアと、少しずつ戦っていけるといい。