サイゼリヤさん、ごめんなさい

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施設ぐらしの妹・U子が帰宅した。月に1度の日帰り帰省だ。今日も絶好調で叫び、下痢をし、歌い、大騒ぎである。

夕飯はいつも妹の好物をつくってやるんだけど、今日はとびきり暑くて料理なんかする気がおきない。それで
「外食にしよう!」
豪勢にいってみた。
「たまにはみんなでレストランいこう!」
・・・サイゼリヤだけどな!

午後5時のファミレスはよく空いている。母がボケてもU子が少々声をあげても、そんなに迷惑にはならないだろう。

注文はなかなか決まらなかった。私もオヤジもすぐに決めて、母ですら決めたのに、U子だけは「うーん、えーと」と悩みつづけた。メニューを指でさわりながら嬉しそうにニコニコ笑って、笑ってしまって、どうしても決められない。

「だって決めちゃったら、それで終わりでしょう?」

と、U子の笑顔は言っていた。注文したら食事が来て、それを食べたら終わってしまう。何を食べようか迷っている時間が一番幸せだから、幸せがいつまでも続けばいいなと思うと、決められない。U子の指はいつまでも楽しそうにメニューの写真をなでていた。

しまいに
「もう! 自分で決められないんなら、おかーさんが決めるよ! イタリアンハンバーグでいいね?」
しびれを切らした母が決めてしまったが、それでもU子は笑っていた。

早く決めろよU子

U子は脳性麻痺である。体のほとんどは自由に動かせないくせに、突然、手や足が勝手に動いちゃうという障害をもつ。急にバタバタと暴れる不随意運動は、困ったことに予測ができない。
「あっ!」
と思った時にはもう遅い。
U子の腕がバットのように振り回されていた。
腕はテーブルを横断し、空のマグカップにヒットした。
カップは場外にはじき飛ばされた。

「あああ!」
カップがスローモーションで飛んでいく。
私もオヤジも手を伸ばすが間に合わない。
唯一、そばにいるのは母だ。
母なら手が届く。
カップが落ちる前にキャッチできる!

母は果敢にも手をのばして、
・・・手をのばして。

母はU子の腕をつかんだ。

ガッチャーン。
床に落ちたカップは粉々に砕けた。

「どうしましたか?」
とんでくる店員さん。
「すみません!ごめんなさい!」
謝り倒す私。

「どうしてカップを捕まえてくれなかったの?」
ときいたら、
「だってU子にぶつかると思って」
と母。

カップは空だったし、軽い素材だ。
たとえぶつかってもU子はケガなんかしなかっただろう。
だが母は、母だから。
とっさにU子を守ったのだろう。
私はカップを守ってほしかったけど。
サイゼリヤさん、ごめんなさい。

本日の猫写真。

掃除してたら、猫がでてきた。
掃除機から隠れてたらしい。