斎藤茂太賞の授賞式は、生まれて初めて経験することばかりだった。あんなに華やかな場所も初めてだし、表彰状をいただくのも初めてだし、同時に・・・人前でしゃべるのも生まれて初めてのことだった。
「3分ほどの授賞者スピーチを」と言われてはいたが、私はただの一般人。生まれてこのかた人前に立ったことなんて一度もない。なのにいきなり偉い方々の前でスピーチだなんて、まともに喋れるわけがない。
そこで私は考えた。あらかじめ原稿を書いておき、それを読めばいいと。デイサービスの利用者さんたちの前で練習もやった(7/19最高の誕生日)。本番でも、大好きなOさんや可愛いKさんの顔を思い浮かべながら原稿を読めば緊張しないだろうと思って。
以下がその原稿だ。
ただいまご紹介にあずかりました、たかはたゆきこと申します。
このたびは、立派な賞をいただきましてありがとうございます。
素晴らしい作品の中から選んで頂いて大変、光栄です。
いまだに夢なんじゃないかと、信じられない思いです。かつて私は、とてもネクラな子供でした。
うじうじと悩んでばかりで、二言目には「どうせできない」と言っていました。
「どうせできない」から何もやろうとしない。引きこもって本ばかり読んでいる子でした。ところが一人旅にハマっていろんな国をまわっているうちに、考えが変わってきました。
旅から、たくさんのことを学んだのです。母が脳卒中で倒れ、在宅介護が始まったときも、旅で学んださまざまなことが役に立ちました。
困ったときは、助けを求めること。
前を向いて、歩きつづけること。やがて、私と母は、海外旅行へ行こうと決めました。
母は昔からよくこう言っていたものです。
「人生は楽しんだもの勝ちだ」
と。
介護する私も、介護される母も、人生を楽しむために、旅をしようと思い立ったのです。しかし周りの人たちは、皆、こう思ったそうです。
「どうせできない」
と。
母はもう歩けないから。車椅子だから。
紙オムツをつけてるから。
要介護5だから。
「どうせ旅行なんかできない」
と。私はその思い込みをくつがえしたくて、この本を書きました。
介護が始まったら、もう人生を楽しむことはできない。
そう思っている人たちに
「そんなことはない!」
「人生は楽しんだ者勝ちだ」
と伝えたくて、未熟ながらも一生懸命に文章を綴りました。旅から学び、旅にたどり着いた私の本が、このような賞をいただけることは、本当に嬉しいです。
私たちの旅は、たくさんの人たちに助けられて実現しました。
よく「介護は孤独だ」と言われますが、私は孤独を感じたことはありません。
数えきれないほど大勢の方々が助けてくださり、また、私の文章を読んでくださったからです。私はこれからも文章を書きつづけることで、
「どうせ無理だ」「どうせできない」
と思っている人たちに
「要介護になっても旅はできる」
「在宅介護をしていても、自分の人生を楽しもう」
ということ発信していきたいと思います。私の文章を本にしてくださった皆様、読者の皆様、私たち家族を支えてくださった皆様に、心より御礼を申し上げます。本当にありがとうございました。
もしかしたら、私よりも上司のほうが心配してくれたかもしれない。ボスは前の晩までメールをくれて
「ゆっくり読みなさい」
とアドバイスをもらっていた。
が、私ときたらのんきなもので、
「原稿があるから大丈夫、本番は読むだけだから!」
などと高をくくっていた。
・・・ところがだ。
思わぬ事態が発生した。
授賞式本番、壇上に立った私は表彰状をいただき、立派な盾をいただいた。そしてマイクの前に立っていざスピーチを…という段になって
「あ!」
えらいこっちゃと思った。
「両手ふさがってる!」
このとき私はクリスタルの盾を手にしていた。これが重い。ずしりと重い。殺人事件の犯人が迷わず凶器として選ぶくらいの重さである。もしも落としたら足指の骨2、3本はいくだろう。がっちり両手でホールドする必要がある。よって、原稿を手に持つことはできない。イスの上に置いていくしかなかった。
ああ、もう。
終わったな。
完全に詰んだ。
しゃあないわ、これは。
ただの一般人の私はあきらめた。
あきらめて腹をくくった。
原稿はないけれど、せめて予定通り、デイサービスの人たちの笑顔を思い浮かべながらしゃべろう。可愛いKさん。人気者のOさん。しっかり者のFさん。歌の上手なSさん…みんなのために、しゃべろう。
緊張で声が震えるのがわかったが、自分が何をしゃべりたいか、何を伝えたいかは覚えていた。原稿の半分くらいしか思い出せなかったし、しょっちゅう噛んだし、何度も立ち止まったし、途中でわけわかんないことを口走った気がするけど、大事なことだけは言えた。と、思う。
こうして私の人生で初めてのスピーチは
「えらいこっちゃ」
で終わった。
そうしたら。
なんと!
奇跡が起こった!
下重先生はじめ作家の先生方に、むちゃくちゃほめていただいたのだ!
「いいスピーチだった」「あれだけ喋れたら立派なもの」「自分の言いたいことがちゃんと伝わった」「あなたは書くだけじゃなくて、しゃべるほうもできる。自信をもっていいよ」「言葉の選び方もよかった」
とまで言ってもらえた。
まさかほめていただけると思っていなかったので、驚きのあまり目を白黒させてしまったけど、言葉のプロ中のプロである方にほめていただけたのだから、これは誇りに思っていいんだろう。嬉しかった。
ということで、まだの方がいらっしゃったら、受賞作をぜひ買ってください!
それにしてもうちの上司は神技的にタイミングがいい。「ここぞ!」というときを狙って必ず仕事のメールを送ってくれる。控室で出番を待ちながらガチガチに緊張しているときに「掃除用ゴム手袋について」なんてメールが送られてきたもんだから、一瞬で冷静になれた。ありがとうございます。
コメント
だださん!
本当におめでとうございます。すごい経験をしましたね。
おめでたいのとは別に気になってる事があります。
いつも、ラフな服装をしていると言うだださんはどんな服装で出席されたのですか?知りたいな〜。
そして、お母さまはどんなスピーチをしたのですか?知りたいな〜。
ありがとうございます!すごい経験でした。
服装…
恥ずかしいけど写真のってます。
https://www.travel.co.jp/guide/article/39850/
普段はもはやラフを通りこしてヤバイ服装なんですよね。
ザ・底辺、みたいな。
それをどうしたかって?
記事にしようかな~どうしようかな~ドン引きされちゃうかもです。
母のスピーチは今一生懸命思い出しちゅうです。うまいこと笑ってもらってましたよー。
Amazonのカスタマーレビューオール★六つだΣ(・□・;)
スピーチも原稿なしでよくやり切りましたね♬
尊敬です。
近所の本屋で探してみます。
おめでとうございます♬
ありがとうございます。
うちの読者さん皆さん優しい方ばかりのようで、ありがたいです。
本屋さんに、まだ置いてあるかな~あるといいな~
スピーチの原稿を載せていただいてありがとうございます。読んで涙しました。本当に素晴らしいです。そして原稿読まなくても、スピーチも素晴らしかったであろう事が想像できます。だださんファンを長年やってきて、とても光栄で誇りに思えるありがたいご報告で、とても幸せな気持ちになりました。
そしてお衣装!ご自身のブログツイッターでの写真や、各サイトでの画像を見てニヤニヤしてしまいました。とっても素敵。よくお似合いです。お気付きでしょうか。ちょっとヅカっぽいです(笑)往年のスターさん。って感じです(^^)
ありがとうございます。
原稿どおりに言えたらもっとよかったんですけどね。
言葉という意味では話すのも書くのも同じですが、やっぱり緊張すると詰まりますね…
でも喜んで頂けたらよかったです。
写真やっぱりはずかしいなあ。
服は友達2人に選んでもらいました。
そのうちの…一人が…ヅカファンです(笑)
だださん、おめでとうございます\(^^)/
斎藤茂太賞の記事をネットで見ました。
だださんお母さん、本当に笑顔で素晴らしいです。
私も嬉しくなりました。
あの、ドキドキの旅行!私も一緒に旅をした気分でした。
本になり、何度も読み返し、凄いことを成し遂げたと!
人生は、どんな時も旅なのかも知れない。
これからも、応援しています。
たくさん読んでいただいてありがとうございます。
写真をみたら私かなり引きつった笑いを浮かべておりますが大丈夫なんでしょうか(笑)
私自身も本に書き直しながらあの旅を追体験していました。
あの本は「心の旅」だと言われました。
>人生は、どんな時も旅なのかも知れない。
そのとおりですね。
誰もが皆人生という旅路の途中。
これからもコツコツ楽しく歩いていきましょうね!
だださん、おめでとうございます!もう何年もだださんのブログを読んでますが、あまりにおめでたいので初コメントさせていただきます。いつもだださんのブログでほっこりさせていただいてます。お母様のポジティブさも素敵で、ネガティブ思考の母親に育てられた私としては、だださんがとってもうらやましいです。だださんとお母様のお話会を開催するなんていかがでしょう?(もちろん有料で!)ポジティブな人生哲学を直接聞きたい人がたくさんいると思うので、考えていただけたら嬉しいです。
初コメントありがとうございます!
ポジティブっていいことなんですが、うちの母は極端すぎて、ついていくのが大変なんですよー。
こちらも負けずにガツガツいかないとね。
お話会ですか? 楽しそうですね!
ポジティブな人生哲学では母に敵う人はいないと思います。
でも、ちゃんとツッコミ役の方がいてくれないと、2人でずーっとボケてそうですね。
もしくは親子喧嘩に発展するとか。
そういえばこのあいだ、バリバラ見ながら「高次脳ネタで漫才やってみたいねえ」とか言ってました。
誰か止めてください。