空模様が不安定な一日だった。
訪問介護の仕事をしているとき、ものすごい雨と風がごうごう吹き荒れ始めた。稲妻がぴかぴか走り、雷様がゴロゴロと轟いている。
「これじゃあ帰れないなあ」
思わず口から出てしまった。
「Yさん、今日は泊めてください」
もちろんただの軽口だ。
定番の冗談。
けれど私がそう言ったとき、Yさんの顔がぱあっと輝いた。
「ええよ、ええよ。なんぼでも泊まっていき!」
まるでおもちゃをもらった子供のように・・・いや、孫の顔を見たおばあちゃんのように。
認知症がだんだん重くなり、出かけることもできず、友達からも離れ、尋ねてくるのはケアマネとヘルパーだけだ。ひとりぼっちの生活の中で、たとえ冗談だとわかっていても、誰かがそばにいてくれるかもしれないという可能性は光り輝いて見えたのかもしれない。私は残酷なことを言ってしまった。
仕事が終わる頃には雨はやんでいた。Yさんは認知症なので、さっきの私の言葉などきれいに忘れている。
「また来週きますね」
帰りの挨拶をするとYさんは玄関まで見送ってくれた。
「ありがとな。気をつけて帰りいな」
Yさんは忘れても、私は忘れられなくて、雨あがりの道を傘をひきずりながら帰った。
本日の猫写真。
介護ベッドから鼻つきだして寝るシシィさん。ギャッジアップのときは光の速さで逃げます。
コメント
切ないけど、いいお話しです。
だださん ありがとね。
さゆさん、こちらこそ、読んでいただいてありがとうございます。