もしも3億円が当たったら

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デイサービスの利用者さんとの雑談で
「もし3億円の宝くじが当たったらどうする?」
という話になった。

もし3億円が転がり込んできたら、私にはやりたいことがいっぱいある。
気の済むまで旅をする。
パティスリーで「ショーウィンドウのケーキ全部ください!」って言う。
宝塚大劇場を貸し切りる。
家を修理する。
妹の施設に寄付して職員さんのボーナスを増やしてもらう。
それから、それから、それから…

だが利用者さんはみんな首をひねるばかり。
「さあ、なあ…」
「3億円ねえ。ピンとこないねえ」
「うーーーん」
一人も答えることができなかった。
「旅行へ行くにも私は歩けないし」
「おいしいもの食べようにも歯がアレだし」
「今さら欲しい物もないしねえ」

これが老いというものか。
なんとなくそう思った。
体が弱ることで欲望を失い、希望をも失っていくことが「老いる」ということなのだろうかと。

それとも、利用者さんたちが望むものはお金で買えない、ということかもしれない。健康とか。若さとか。体力とか。家族とか。時間とか。本当に大事なものは何億あっても買えないから。

「執事を雇ってみるのはどうでしょう?」
と私は訊いてみた。
「デイから帰るとね、パリッとした紳士が『お帰りなさいませ、奥様』って迎えてくれて、美味しい紅茶を入れてくれるの。いかがですか?」
すると利用者さんはたった一言、
「そんなん邪魔やわ」
ああ邪魔ですかそうですか。
「じゃあ私が3億円当てたら、コヤマのケーキを山ほど買ってくるからデイで食べましょうね」
っていうと、皆さんわあっと喜んでくれた。
・・・宝くじ、買わへんけど。夢みるくらいはいいよね。

ちなみに、うちの母に
「3億円の宝くじが当たったらどうする?」
と尋ねたら、即座に
「障害者と高齢者がいっしょに暮らせる施設をつくる!」
と、3億円では間に合わなさそうな答えが返ってきた。
やっぱり母はまだまだ若いと思った。

3億円あったら、保護猫カフェ併設のデイサービスを作りたいなあ…