共感

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高齢の方に
「最近、ものわすれが酷くて。昨日なんか家の鍵を忘れてね…」
と言われたらどう返すのがいいだろうか。
デイサービスの利用者さんが不安そうにそんな話を始めると、すかさずスタッフが
「私も私も!」
と答える。これは認知症の方の不安を和らげる手段…なのだと思う。実際にそんなことなくたって「私も」って言うのかもしれない。

だがこれが私の場合、ぜんぶ実話で共感できてしまう。
「私もよく忘れるんですよ家の鍵。このあいだなんかドアに差しっぱなしで仕事に出ちゃって」
自慢じゃないが私ときたらどんなお題を与えられても対応できるほどたくさんの失敗談ストックがある。なにしろ私のモットーは「人生ぜんぶネタ」だから。
鍵を差しっぱなしで出歩いたり、財布を落として警察のご厄介になったり、全財産が入ったバッグを置き去りにしたり、予定を一週間まちがえたり。そんな間抜けな話をしていると、しまいに
「あんた、まだ若いのに大丈夫かいな?」
と利用者さんに心配される始末である。それが良いことなのか悪いことなのかは、よくわかんないけど。利用者さんが笑顔になってくれたら成功だ。

今日もまた物忘れの話になった。
利用者さんの一人が
「最近すぐ忘れるの。『ご飯はもう食べたやろ、覚えてないんか!』って娘に怒られるのよ」
と嘆く。
すると他の利用者さんが口々にこんなことを言った。
「そんなもん覚えてられるか、私は忙しいんや!って言ってやれ」
「そうだそうだ」
他の方がそろって同意する。
「せやんなあ、いちいち覚えてられんわなあ」
相談した方は満面の笑みだ。
私はいつも、人生の先輩方にはとてもかわないと思う。

人生は長い。
一日三食で計算すると85年で9万3千食も食べることになる。
そのうちの100回200回なんて忘れたっていいじゃない。
「娘だってな、このあいだ旦那の誕生日を忘れててんで。同じやんか!」
「そうだそうだ!」
利用者さんは気勢を上げる。

介護者は孤独だといわれるが、被介護者だって孤独なはずだ。どうしてこんなに忘れるのか、できないことが増えてしまうのか、不安でしかたがない。

家族はそいうことに理解はしても共感できない。してはいけない。あんまり共感すると疲れて倒れちゃうから。だからこそ、心の底から
「そうだよね!」
「私も私も!」
といえるデイの人たちは大事な仲間なんだろうなあと思った。

本日の猫写真。

デイサービスのお見送りを完了したミー先輩。
今日もお仕事、お疲れ様です!