デイサービスで働く猫の話

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私の勤め先のデイサービスには猫がいる。半野良(地域猫ともいう)の女の子で、名前はミーさん。トラちゃんと呼ばれることもある。下っ端の私は敬意をこめて「ミー先輩」と呼んでいる。

ミー先輩の仕事は、利用者さんの送迎補助。
朝には
「いらっしゃい」
とお出迎えをして、お帰りの際には
「またね!」
と見送る係。たまには縁側に座ってコーラスの練習を聞いてくれることもある。

基本的に建物の中には入らないし、利用者さんに近づくことはあまりないが、猫好きな利用者さんは
「ミーちゃんおはよう」
と欠かさず挨拶してくれるし、
「縁側で猫がひなたぼっこしてるの、ええなあ」
とおっしゃる方もいる。
ミー先輩は、利用者さんたちを遠巻きに見守りつつ、私たちスタッフを癒やしてくれる猫さんなのだ。

ところが今朝、出勤するなり
「ミーちゃん元気ないのよ」
と上司が心配そうに言った。
「ずっと猫小屋(ミーさんの隠れ家)にこもってゴハンも食べないの。具合が悪いみたい」
そりゃ大変だ! 猫がゴハンを食べずに閉じこもるのは本格的に具合の悪いときなのだ。どうやら昨晩、よその猫とケンカをしてケガをしたらしい。見た感じ血は出てないみたいだけど…。
「ちゅーる(猫の大好物おやつ)持ってこようか?」
「私も持ってこようか?」
「お昼にダシとった鶏があるから食べないかな」
「病院つれていく?どうする?」
スタッフみんな気が気じゃない。

午後になり、利用者さんが帰る時刻になった。
トップバッターは猫好きのHさんだ。
「あら、猫ちゃんはどこかしら?」
とミー先輩を探している。
「一目、猫ちゃんに挨拶してから帰りたいんだけど?」
すると猫小屋から、のっそりと、ミー先輩が姿を現した。

「あらミーちゃん!」
「無理しないで」
「足が痛そう。大丈夫?」
「傷もないし、骨が折れたってわけでもなさそうだから、捻挫でもしたのかな」
「痛いなら出てこなくていいよ、寝ときなさい」

みんな口々にいろんなことを言った。
けれどもミー先輩は
「いえ、仕事ですから」
と一言。
痛む足を浮かせたまま、3本足で、ひょっこりひょっこり歩き、Hさんにむかって
「ミャー!」
と挨拶した。
「あらこの子ったら『撫でなさい』って言ってるわ」
Hさんは優しくミー先輩の頭や背中をなでてやった。ミー先輩は嬉しそうにゴロゴロしていた。

そのあとミー先輩は、利用者さん全員が車にのりこむのをポーチで見送った。
「またきてね!」
そしていつもどおり、運転手さんが帰ってくるまで、そこで待っていた。
「おつかれさま!」

ケガしてるのに時間になると姿を現し、利用者さんをお見送りするミー先輩

「仕事」がすむと、ひょっこりひょっこり、3本足で小屋まで歩いていき、身を隠した。今日くらい中で休んでくれたらいいんだけど…。

ケガをしても仕事は休まないなんて。勤勉な日本人の鑑…というよりは
「ブラック企業につとめるサラリーマンみたいだね」
明日は土日でデイもない。
ゆっくり休んでもらいたい。
来週は元気なミー先輩に会えますように。

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