重度障害者の妹とエジプトに行った時の話

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私は2年前に要介護5の母をつれてウィーンへ行き、それを本として出版した。拙著『おでかけは最高のリハビリ!』を読んでくださった方から
「エジプトへ行ったときはどうでしたか?」
という質問をいただいた。
私たちは重度障害者の妹(車椅子ユーザー)をつれてエジプト旅行をしたことがあり、「そのときの経験がウィーンに生きた」と書いたからだ。妹の障害は母よりずーっと重く
「U子がエジプトへ行けたんだから、お母さんだってウィーンに行けるはず」
という自信があった。エジプト旅行がなければウィーンもなかったかもしれない。

もう10年以上昔のことだから、あまり参考にはならないかもしれないけど、車椅子の介護という視点から少しまとめてみようと思う。

車椅子を押すアハメド君。肩には椿が肩車

2007年のエジプト旅行について

●U子のスペック

・脳性麻痺
・身障手帳一種一級、知的障害A判定
・自分で起き上がることもできず、読み書きもできず、ほとんど言葉を話せない。移動も食事も排泄も、行きていくすべてに介助が必要。
・標準車椅子、紙オムツ使用
・身長160センチ、体重32キロ
・三人姉妹の末っ子
・当時25才 身体的なことを考えると、冒険できる最後の年齢だと思われた

●エジプトを目指した理由

U子は『世界ふしぎ発見!』が大好きだから。
「それではここでクエスチョン!」を現地でやってみたかった。
妹をつれていく前に、私はエジプトまで下見に行った。

●旅のメンバー

・母(股関節脱臼のため、すでに杖なしでは歩けなかった)
・私(長女。30代前半)
・R子(次女。健常者)
・U子(三女。重度重複障害者・車椅子)
・椿(R子の娘・4才)

なんて頼りないメンバーだろう。本当はヘルパーさんにも来てもらう予定だったが、ダメになったのだ。まともに動けるのは、私とR子だけ!

スフィンクスをバックに微笑むU子と、走りまわる椿

当時、姪っ子の椿は台湾在住。4才児ながら海外経験も豊富で、なかなか頼もしい子供でした。

●旅行代理店とのトラブル

やたらと顔の広い母が
「知り合いに、大手から独立して、障害者専門の旅行代理店をつくった人がいるの。あの人に相談しよう!」
と言って、聞いたこともない小さな旅行代理店を見つけてきた。
そこで貸し切りツアーを組んでもらった。

・航空券(エジプト航空直行便)
・ホテル(ラムセス・ヒルトン)
・日本語スルーガイドと現地ガイド
・ほぼすべての食事
・移動のバス

すべて手配してもらう。むちゃくちゃお金かかった…

ところが!
出発2週間前になって、留守番電話にぞっとするようなメッセージが入っていた。
「すみません…飛行機の座席がとれませんでした…」
謝ってすむ問題か!
ごめんで済んだら警察いらんわ!
正月三が日であったが旅行会社のおっさんの自宅に凸電して
「なんとかしろー!」
と怒鳴った。
出発まであと十日、ホテルもバスもすべて入金済みなのに、飛行機がないなんて無責任すぎる!

なんとかフライトがとれたと連絡あったのは、出発の1週間前だった。エジプト航空(直行便)はダメだったが、エミレーツ航空(乗継便)で行くことになった。ギリギリすぎて冷や汗がでた。

●飛行機と空港

日本以外の空港すべてがタラップだった。ドバイとカイロではリフトで下ろしてもらったが、ルクソールの空港には当時リフトがなく、スチュワードさんにお姫様抱っこしてもらった。

ドバイ乗り継ぎ時、係員の人が迎えにきて車椅子を押してくれ、小さな小部屋につれていかれて
「次のフライトまでここにいろ」
と命令された。小部屋には同じような障害者やお年寄りがひしめきあっており、座る場所にも困るほど。
2時間もそんな所にいたくなかったので、空港内を散歩しに行こうとしたら文句を言われた。
「ここから出てはいけない」
ほぼ軟禁である。「障害者の保護」という名の隔離である。これは2007年のことなので、今はなくなってるといいなあ。

●ホテル

下見済みのラムセス・ヒルトン。快適に使えた。バリアフリールームだったが、U子はどうせトイレを使えないし、お風呂も抱っこで入れるので、バリアフリー仕様はあんまり関係なかったかも。

●旅のスタッフ

最低でも4人、最高で7人の方々が常に私たちを支えてくださった。お金をかけただけのことはある。
・スルーガイド(日本人女性のFさん)
・現地ガイド
・現地アシスタント
・バスドライバー

だがこれでも足りなかったので、現地で若い男の子を雇ってもらった。彼は主に「担ぎ係」。当時のエジプトにはバリアフリー設備がほとんどなかったので、車の乗り降りなど、彼にU子を「担いで」もらう仕事を頼んだ。もちろん介護のカの字も知らない若者だが、優しくて子供が好きで、とても頼りになった。彼がいなかったらエジプトでの観光は大変なことになっていただろう。

●街歩き

エジプトの町はお世辞にも車椅子向きとはいえない。段差だらけだし、大きな道路を渡ろうにも信号はない。ホテルの周囲とハーンハーリーリ以外はあまり出歩かなかった。

●観光のペース

障害者2人と4歳児のツアーである。一日の半分が「お昼寝」に当てられていた。

午前:○○観光
レストランにて昼食
午後:フリータイム
ホテルにて夕食

というパターン。
普通では考えられないほどゆったりした、ムダの多い日程にみえるが、これくらいでないと身体がもたない。後年、母をつれてウィーンへ行くときもこのプランを参考にした。

●トイレ

当時のエジプトには基本的に車椅子用トイレはぜんぜんなかった。なので一般トイレの広めの個室を使用し、2人がかりでU子を担ぎ上げ、時には立位でオムツ交換をした。

●ギザのピラミッドとスフィンクス

現在では綺麗な歩道が整備されて車椅子でもほとんど問題ないと聞いている。
だが2007年当時は、バスを降りてからガタガタの岩盤をしばらく行かねばならなかった。ものすごくガタガタなので、車椅子を乗ってるほうも押す方もかなり大変。ところどころ車椅子を持ち上げて乗り越えていく。だが、それに耐えれば、ピラミッドの石に触れることができた。ピラミッドの中に入ることはさすがにあきらめたけど。

スフィンクスを外から見る分にはわりと問題なかったと思うが、スフィンクスの葬祭殿のほうは段差だらけで大変だった。

●砂漠の砂と車椅子

ピラミッドはどれも砂漠の中に建っているが、「砂漠」といっても公園の砂場みたいにサラサラした砂山ではない。鳥取砂丘とはすこし違う。硬い砂地や砂利の地面なのだ。車椅子の前輪をあげて進めばなんとかいけた。サッカラなど観光客の多いところでは木製の遊歩道がつけられていた。

前輪をこれでもかと上げて進む。

●考古学博物館

エレベーターもあり問題なかった。ちゃんとエレベーターが動けば、の話だけど。

●王家の谷

チケットを買ったあと、タフタフと呼ばれるトロッコのような乗り物で移動しなければならない。自立できない人には移乗が難しい乗り物だった。妹はもちろん抱っこで乗せた。タフタフを降りたら先は、きれいに整備された広い通路があるから大丈夫。

王家の谷のメインストリート

墓そのものはハードルだらけ。さすがに遺跡内にエレベーターをつけるわけにはいかないだろう。通路がスロープ状の墓もあるが、どこの墓が開いているかは日替わりだから運次第?

2005年、2007年に訪れた記憶。
・車椅子でも安心して入れたお墓:ラムセス4世・9世
・入り口はOKだけどすぐに階段になってるお墓:ラムセス5世・6世
・車椅子ではムリだったお墓:ラムセス3世・ツタンカーメン

とくにツタンカーメンのお墓はハードルが高い。入り口がまるで洞窟みたいな深い縦穴で、階段は梯子のような急角度。車椅子を下ろすことさえ不可能だった。「これはにさすがにムリだろう」と思ったが、「抱っこ係」として雇われたアハメド君が「まかしとけ!」とU子を担ぎ上げ、お姫様抱っこで梯子を降りてくれた。見ていてかなりハラハラした。

●その他神殿など

ルクソールやカルナックなど、大きな神殿はスロープがあったり石畳が敷かれているので砂漠に比べれば楽ちんだ。とはいえある程度のデコボコはあるし敷居のような障害物もある。ナイトツアーは注意が必要。現在、がんばって歩道を製作中だと聞いている。

ルクソール神殿かな?右下でカメラ構えてるのが私

私のおすすめはメディネトハブ神殿と、ハトシェプスト女王の葬祭殿。
ハトシェプスト葬祭殿は入り口に感動するくらい巨大なスロープがついている。角度はかなり急だけど登れないことはない。奥のアヌビス神殿への道のりはハードで、狭い上に砂利道だ。だがそこを乗り越えるとすばらしい壁画が見られる。

ハトシェプスト葬祭殿。傾斜がきついので男性の力が必要でした

こんなところだろうか。あれから11年。エジプト観光もきっと、バリアフリー化が進んだろう。たぶん。

コメント

  1. ご家族に対する愛情の深さと行動力に感動しました。
    妹さんにとってもとても有意義な時間だったと思います。
    エジプトは死ぬまでに一度は行っておきたいところです。写真からも雄大さが伝わってきます。

    私は両親を連れてケアンズと台北に行ったことがありますが、母はいまだにあの旅行は楽しかったと言ってくれますし、父も亡くなる寸前までケアンズの話を嬉しそうにしてくれました。
    それだけでも一緒に行って本当に良かったと思います。

    • エジプトはおもしろいですよ!
      詐欺師とボッタクリが多いですが見破りやすいですし。
      食事が合わないのだけは困りましたが。

      兄弟って、親を介護する感覚とはかなり違います。
      うちは生まれつきの障害なので、車椅子もオムツもただ「そういう人」という認識。
      だから
      「妹のために何かしてあげよう」
      という感覚は皆無!
      単純にみんなが行きたいから行くだけの家族旅行なのですよ…
      でも台場さんのご両親と同じく、妹にとってエジプト旅行は生涯の自慢思い出になると思います。

  2. エジプト いいですねー。
    旅立つ勇気を持ちたいです!
    なんか、出来そうな気になりました‼︎

    • エジプト、ご飯はいまいちですが観光は最高です。
      旅立つのは簡単ですよ!
      無事に帰ってくるのは大変ですが(笑)

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