弾丸旅行者にとって何よりも貴重なものは時間だ。空港までの往復や出入国手続きにかかる時間などを考えると、観光に使えるのはたった5時間ほどしかない。問題はこの5時間をいかに使いこなすかで、数週間をかけて計画をたてていた。
今回利用した航空会社はエア・アジアX。関空~バンコクの往復がなんと2万円! にもかかわらずドンムアン国際空港に到着したのは予定より30分も早かった。
「時は金なり」の弾丸旅行者にしてみれば30分儲けたことになる。超ラッキー! 今すぐバンコクの街にくりだすぞー!
・・・と、いいたいところだが。
真っ暗。
まだ真っ暗!
だって朝の3時だもん!
身動きとれねえよ!
早く着いてもぜんぜん意味ないよ!
海外旅行中は、外が暗いうちは外に出ないことに決めている。
仕方がないから空港内で、旅行者用SIMを買ったりスマホを充電したりコーヒー飲んだり友達とLINEしたり、ま~ったり過ごした。
「なんだこのムダな時間?」
とか思いながら。相変わらず要領が悪いんだ私。
南国の日の出は日本より遅い。5:30すぎ、ようやく夜明けがおとずれたので空港を出た。
東南アジアで朝早くから観光しようと思ったら、どこへ行くべきだろうか? 観光地はどこもまだ閉まっている。この時間で唯一、開いているのは・・・朝市である。
空港からタクシーで30分ほど走るとウォンウェンヤイ市場に着いた。古き良き下町の市場だ。
生鮮食品の売り場をのぞいてみると、つややかな果物やみずみずしい野菜、貝や魚、いろんな部位の肉などなどが並んでいた。
早朝から市場は活気に満ちていた。包丁をふるわれてとびちる肉片、もうもうとのぼる湯気、おばちゃんの怒鳴り声とおっちゃんのからかい声。おかずの屋台も並んでいて、通学中の女子高生たちがお弁当を買っていく。混雑のなかを自転車やバイクがすりぬけていく。
足元には5mごとに猫がいた。
乾物屋の店先で昼寝をしている黒猫さんにカメラをむけていると、そこのご主人が
「こっちおいで、もう一匹いるよ」
と呼んでくれる。サンセットという名前なんだそうな。
市場をでて大通りの反対側へいくと鉄道駅がある。駅の周辺はちょっとした屋台街だった。
僧侶の托鉢もタイの朝らしい光景だ。
タイの人たちは信心深い。道端の屋台では托鉢セット(ご飯やお菓子と水、花など)が売られていて、オレンジ色の袈裟をきた僧侶がまわってくるとこれを恭しく寄進する。混雑した市場にも線路脇の屋台街にも、僧侶の読経の声が響いていた。
さて私もこの屋台街で朝ごはんにしよう。麺の屋台を見つけた。
屋台では言葉がわからなくても大丈夫。
「おばちゃん、これちょうだい!」
と指をさせば注文できる。おばちゃんもニッコリ笑って
「よしゃ、これな」
と作ってくれる。
汁そば一杯で20Bだっけ?60円くらい。トッピングも豊富で揚げワンタンみたいなのがおいしい。ずるずるっとすすりたいところだけれど、タイには麺はすべてレンゲに乗せてから食べるというマナーがある。正直まどろっこしい。
テーブルの上には4種類の調味料+ナンプラーが置いてあり、自分好みに味をつける。
相席になった若い女の人とおしゃべりをした。彼女は英語が堪能で、おばちゃんと私の通訳をしてくれた。
「この麺めっちゃおいしい!」
と伝えてもらった。
「おばちゃんの妹が日本にいるんだって。もう10年も住んでいて、おばちゃんも一度会いにいったのだけど、おばちゃんは飛行機が怖いんだって。あれから2度と日本には行けないんだって」
・・・そうなんだ。妹さんに会えなくて寂しいね。
「うん、とても寂しい」
・・・妹さんは日本のどこに住んでるの?
おばちゃんは「忘れた」といっていた。が、私が食事を終えて立ち上がったとき突然思い出したみたいで、
「ナゴヤー!」
と叫んだ。
「ナゴヤーナゴヤー!」
おばちゃんの妹さんは名古屋住みらしいです。元気にしておられますように。