うちの父は生まれてから65年間、家事には無縁の男だった。母が倒れてからちょっとずつ家事を覚え、最近では料理までできるようになって、
「うちのオヤジもなかなかやるなあ」
と思ってた。
ところがだ。
もっと上手がいた。
その男性も、高齢になるまで家事に手をつけたことがなかったそうだ。冷蔵庫を開けたことさえなかったくらいだ。が、奥さんの病気をきっかけに家事を始めた。
まずは庭の草ぬきと水やりから始め、ゴミ出しや洗濯物の取り込みをやるようになった。やがて台所の皿洗い、洗濯物干し…と、できる仕事が増えていった。お会いするたびに私は驚かされた。
「すごい! こんなことができるようになってる!」
と。
なぜなら、そのご主人は認知症だからだ。
いろんなものを忘れてしまって、いろんなことができなくなって。
それでも彼は毎日、新しい仕事に挑戦している。
奥さんのために。
このあいだ久しぶりにお会いしたら、野菜を切ったりレンジで温めたり簡単な調理までされていた。もちろん一人で全てできるわけではなく、奥さんがベッドから指図しているのだけれど。どんなに高齢でも、認知症でも、新しいことができるようになるのだ(愛さえあれば!)と驚いた。
「教えるのはほんとに大変よ! 何十回何百回、おんなじことを繰り返しいって聞かせても覚えられないわけだからね。こっちはついイラッ! としてしまうのだけど、私がイラッとしても、お父さんは怒らなくなったの。そういうお父さんを見てると私も『あ、怒っちゃダメだ』って思えるようになってね。この頃あんまりイライラしなくなった」
そういって奥さんは太陽のように笑った。旦那さんは言葉もうまく出ないので、ただ恥ずかしそうにニコニコと聞いておられたが、奥さんによれば
「これが僕の仕事」
と思って頑張っているのだそうだ。
病に倒れた奥さんを支えることが、夫である僕の仕事、と。
そして認知症のご主人を支えるのが奥さんの仕事なのだ。
夫婦ってすごい。
助けたり、手伝ったりだけが「介護」じゃないんだ。
話は変わる。
母の世話をしてくれたヘルパーさんの記録にこんな言葉が書いてあった。
『ししちゃんと布団で横になられていました。』
どうやらヘルパーさんは猫の名前を
『しし』
と覚えているらしい。
ちなみにオヤジは
『しーしー』
と呼ぶし、妹は口がまわらないから
『CD!(しーでぃー)』
って呼ぶし、もう一人の妹はLINEで
『獅子ちゃん元気?』
って書いてくる。
みんな好きに呼びすぎです!
正式名称は『シシィ』です。
でも私は甘やかすとき『ちちぃ』って呼んでます。
コメント
だださん、こんばんはー
ごめん、白状します。
いつからか私は勝手に「シシやん」って呼んでましたー!
シシやん!
獅子やん(笑)
いいですやん!
マリーとかエリーとかアニーとかだと聞き取りやすいんでしょうね。
シシィってオーストリア皇后のお名前でとっても高潔なイメージですけど、あまり身近なキャラ名じゃないから。
ししちゃんってお獅子みたいですねえ(笑)
やっぱり親しみのない名前なのですかー
母も妹も『エリザベート』観劇済みで、仕込みは完璧のつもりだったのですが(笑)
うちのオヤジは「外国人女性の名前」ということしか覚えられず、
「ルーシー?」
「スージー?」
「キャサリン?」
だいぶいろいろと呼んでおりました。
グーグル先生の音声入力では必ず「獅子」と変換されます。