幸せな一日

「今日は一緒にバイオリンを弾きましょう」
といって、母の旧友が遊びにきてくださった。高校のオーケストラ部の仲間で、ともに青春を過ごした親友だ。

私たちは２人バイオリンで、その方はお一人で。３人で２台のバイオリンを使い、バッハのメヌエットを合奏した。とても簡単な曲なのだけど、パートを分けて合奏すると、それはそれは素敵な曲になった。

「バイオリンは誰かと一緒に弾くほうがいい音になるね！」

（お客さんが来ようがバイオリンを弾こうが、おかまいなしで眠りつづけるシシィさん。）

夜には、母がスマホを片手に大活躍してくれた。トマトとナスがたくさんあったので、何をつくろうか悩んだ私は、
「グーグルで調べてよ」
と頼んだのだ。
母は苦心惨憺しながらスマホを起動。音声入力で
「ナスとトマトの煮物のレシピ」
と検索をかけてくれた。
そうして出てきたレシピを、母は一つ一つ読み上げてくれた。

「ナスの皮をむき、縦に切ります」
はい切って！
と、私はナスと包丁とまな板を渡す。
母はレシピ通りにナスを切る。

「トマトを切ります」
はい、トマト！
トマトも母に切ってもらう。
・・・あ、スマホに触る前に手をきれいにしてね！

火を使う工程は私がやろう。
母はレシピを読み上げる係に専念する。
「フライパンで油をあたため、ナスを炒めます」
「トマトを加え、塩を小さじ四分の一ふりかけます」
「酒をふって６分～8分間蒸します」
「おわり」
母の指示どおりに料理をすると、なんとなく料理ができあがった。

「すーーっごくおいしい！」
母は大満足。いつも以上にたくさん野菜を食べてくれた。
調子に乗って、フェイスブックにも写真を載せた。

まあ、操作の半分以上は私がやってるんだけどね！ いつか一人でできるようになってくれたらいいなあと思う。

友達とおしゃべりをして、バイオリンを弾いて、おいしい料理もできて、母はなかなか幸せそうな一日だった。