オヤジ、衝撃の告白をする

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退院してきたオヤジがある日突然、覚醒し、しゃべり始めたのは1月半ばのことだった。
あう、うう、とうなるばかりで言葉がでてこなかったのに、ある朝
「今夜はハリーポッターを見よう」
とか言うんだから驚いた。
いつも喋れるわけではないし、すらすらとはいかないが、必要なことは伝えられるようになった。
質問にも答えられるようになった。

それで。
話せるようになったオヤジは衝撃の告白をしたのだ。

「おれ、独身だよ」

と。

「奥さんなんていないよ」

・・・ふぁ?
どゆこと?
じゃあ、お母さんは?
奥さんじゃなかったら、あれは誰なの?

「あれは、俺のかあさん。おふくろ」

ひえええ。

じゃ、私は?

「知らん!」

ええええ!

衝撃の事実!
私、知らん人だった!

脳梗塞の後遺症で、高次脳機能障害というものがある。
難しいことはわかるのに、簡単なことが分からない、という障害だ。
「銀行の仕組みはわかるのにお金の使い方がわからない、というようなものです」
とお医者さんからは説明された。

オヤジの場合はそれどころじゃなかった。
記憶障害も加わって、家族の記憶がスポンと抜けているようなのだ。
高次脳というより記憶喪失に近いのかもしれない。

たくさん質問をして分かったことをまとめると、オヤジには

・結婚した記憶がない
・子供の記憶もない
・妻のことを「自分の母親」
・私のことは「知らない人」
・障害のある娘は「名前は覚えているが、関係性はわからない」
・孫のこと「甥姪」
・娘婿のことははっきり覚えている
・自分の兄弟のことは覚えている
・猫たちのことはすべて完璧に覚えている「あたりまえだろ!」

今いる場所のことや、仕事のことは覚えている。
なんなら世界情勢のこともニュースで見てわかっている。
ハマスとは何か?と尋ねられて
「イスラエルに抵抗してる勢力」
と答えたのだから大したものだ。

なのに!
ハマスのことはわかるのに!
猫のことは完璧に覚えているのに!
母や私のことは一切わかっていない!

な ん だ こ の 脳 み そ !

私も母ももう笑いが止まらなくなって、二つ折れになってヒイヒイ転がったのは言うまでもないだろう。
母は
「そんなこと言うなら離婚よ!・・・あ、でも結婚したことを覚えてないから離婚もできないか!」
とコロコロ笑うし、私は
「他人だから施設に入れても仕方ないよね?」
とコッソリ思ったりしている。
知らない人に介護されるのは気の毒かなとも思ったので、家の中でも制服を着てヘルパーっぽく活動している。
そのほうが、心なしか下の世話も楽に感じられる。
尚、給料は出ない。

で、母の時も思ったけどさ。
脳みそっておもしろいね!
ほんと何が起きるかわからない!

周りの方々は「たいへんね」「ショックじゃない?」と気遣ってくださいますが、なんてことないです。
記憶がないからといってオヤジは介護拒否もなく、日によっては
「なんとなく家族のような気がする」
という時もあり、これまで通り普通に介護させてくれるからです。
奥さんだとは理解していないけれど、今までどおり母を大事にしています。
記憶がない。
ただ、それだけのことです。

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